その67 出会い頭
<(相変わらず)風曜の日>
決まったみたい、と、バス子は言った。だが、僕達の前には――
チーン
「うわあああ!? エリィ、ベルゼラ! だ、大丈夫!?」
折り重なるように倒れた二人に駆け寄ると、エリィが僕に手を差し出してツゥと涙を流して呟く。
「全然決着がつかないんです……もう『あいこでしょ』を言うのが疲れて……」
「割とどうでもいい理由で力尽きたね!? てっきり殴り合いでもしたのかと思ったよ……」
「すみません……ご迷惑をかけて……エ、エリィさん……あなたがレ……ソレイユさんと行ってくだ、さい……」
「そんな……!? 私はいいから、ベル、あなたが行ってください……」
「いや、二人とも待っててもいいけど……」
「「それはダメです」」
二人が口を揃えて僕に言いちょっと怯む。さてどうしたものかと思ったところで、ルビアが片目を瞑り、腰に手を当てて二人に声をかけた。
「仕方ないわねえ。それじゃ二人でレオ……ソレイユと一緒に行動して。あたしはシルバと行くから、バス子はレジナさんとでいい?」
「きゅん!」
「わたしはそれでいいですよー」
「アタシも構わないぞ」
「え? いいの?」
僕が訪ねるとルビアは苦笑しながら頷き、二人を指さす。そっちを見ると、
「ギルドですね。しっかり情報収集をしましょう」
「セーレのことが分かるといいですけど」
「全然元気じゃないか!?」
と、スックと立ったなんちゃら仮面のように立ち上がりプランを立てていた! あれえ! するとバス子が笑いながら僕の背中越しに言う。
「げひゃひゃひゃ! まあ、演技だってのは分かりましたけどね! いやあ苦労しますねレオ子さんは! へぷし!?」
とりあえずバス子にチョップを食らわし、僕達は宿の前でそれぞれの目的地へ別れて歩き出す。ルビアと一緒に
行くシルバはとても喜んでいたけど、お嬢様とペットにしか見えなかった。
とりあえず二人を連れて案内紙を頼りにギルドを目指すとしようか!
「さてと、ここのギルドでもいざこざが無ければ助かるけど」
「大丈夫じゃないですか? ほら、今の私達は可愛い旅行者三人組ですし♪」
「うん、僕は不本意だけどね」
「何かあってもれ……ソレイユさんが何とかしてくれそうですからね」
「そんなことを言って、本当に何かあったら困るんだけど……というか、演技なんてせずに一緒に行くって言えばよかったのに」
僕が訪ねると、二人はあははと愛想笑いをしながら頭を掻く。
「あ、あはは、ルビアにああ言われたものの、譲ってあげたいけど譲れない、そんな感じになっちゃいまして、二人で考えたんです」
「まあ、別に困ることでもないからいいけどね。情報収集も無理しなくていいわけだし」
「いえ、あの魔族については私も気になりますしお手伝いさせてください」
ベルゼラはセーレが気になるとそんなことを言う。顔を見る機会が無かった……いや、あったけど、戦闘中のルビアの背中と馬車の中だったからなあ。ともあれベルゼラをセーレが見て何か反応があれば……まあ次は捕まえるけど。
そんなことを話していると、やがてギルドへ到着した。
「あ、ここだ」
「へえ、街並みに合わせてるんですかね。とてもキレイな建物ですよ」
エリィが言う通り白い壁は常に掃除されているのかとてもキレイで、荒くれ者達が多い冒険者が足を踏み入れる感じはしなかった。ササっとギルドの扉を開けて様子を伺うことにしよう。
ササッ……
「さて、どんな人に話を聞くのがいいか――」
チーン
「な、なにぃぃぃ!? ギルドに入った瞬間倒れた冒険者の山だってぇぇぇ!?」
思わず説明臭いセリフを言ってしまったけど、別に間違ってもいないので続けて説明しよう! 何やら器を持った冒険者たちが口から泡を吹いたり床に突っ伏していたりと死屍累々……まさか毒!?
「う……うう……す、済まない……薬を……」
呆然としていた僕達に、床に倒れていた男が手を伸ばして声を出してきたので、ハッとしてエリィが魔法を使う。
「だ、大丈夫ですか皆さん!? 《キュアヒーリング》!」
「あ、そ、そうだね《ダークヒール》!」
どうやら全員悶えてはいるけど生きてはいるらしく、僕も回復魔法を使う。毒ならリカバーだけど、次々と冒険者たちが息を吹き返した。
「うえ……まだ気持ち悪い……」
「アタイ川の向こうでばあちゃんが冷や汗を流しながら『まだ早いって!?』って大慌てで手を振ってる夢を見たんだけど、なんだったのかな?」
「おま、それって――」
と、全員無事なようだった
「ふう……助かった、ありがとうお嬢さん方」
「いえ、それより一体何があったんですか?」
僕がおじさんというにはまだ若い男性がお礼を言ってきたのでことの顛末を訪ねてみると――
「すまん! 胃薬を持ってきたぞ! ……ってあれ?」
「おせぇよギルドマスター! もうこのお嬢さんたちに治してもらったぜ!」
「お、おお、そりゃよかった!」
ちょうど奥からやってきた小太りのギルドマスターと呼ばれたとてもやさしそうな男性が喜んでいた。そこで先ほどの男性が苦笑しながら僕達に言う。
「いやあ、ギルドマスターは体格の通り料理が好きなんだよ。で、自分でも作ってるんだけど、今日のは大失敗って訳さ! 9割はちゃんとしたのを作るんだけど、今日みたいな日もあるから油断できないよ! それが面白いんだけどな、はっはっは!」
「軽いですね……」
ベルゼラが困惑したように言うので、僕が肩に手を置いて首を振る。こういうことはよくあるのだと。
「でもギルドマスターがいらっしゃるのは丁度いいですね! 恩を返してもらいましょう!」
「う、うん、そうしようか」
エリィがそういうと、ギルドマスターがこちらに近づいてきた。そして僕達にぺこりと頭を下げて笑いながら口を開く。
「すまんねお嬢さん方。私のせいでびっくりしただろう?」
「いえ、大丈夫ですよ。大事でなくて良かったです」
「そういってくれるとホッとするよ。私はギルドマスターのハダスという。困ったことがあったら相談しておくれ」
「僕はソレイユと言います」
握手をすると、にこっと笑った。
さて、まさかこんなチャンスが巡ってくるとは思わなかったけど、これを逃すわけにはいかない。
「では早速ですが――」
◆ ◇ ◆
「きゅんきゅん!」
「こら、あまり動かないでよシルバ。落ちちゃうでしょ」
「(僕、自分の足で歩くよ?)」
「迷子になったら困るからね。大人しくしてなさい」
「きゅーん……」
ルビアはシルバと公園に出向いていた。
今のルビアの恰好は犬を連れて散歩しているお嬢様に見えるからとエリィに言われたためである。
てくてくと歩きながら、陽気な日差しに子供やお年寄りが日向ぼっこや遊んでいるのを見てルビアは誰にともなく呟く。
「町中は平和そのものね……奴隷を欲していたし、誘拐事件でもあるかと思ったけど、子供たちが外で遊んでいるところを見るとそういう訳でもないのかしら」
「(この町の外の人ばかり狙っているとか?)」
「賢いわねシルバ。それにあなたみたいな獣人やエルフなら森暮らしが多いし、フッと消えても気づかれにくいしね」
「きゅーん♪」
褒められて嬉しいのか尻尾をぶんぶん振って喜ぶシルバ。だがすぐに不安そうな声に変わる。
「(シロップ、大丈夫かなあ……あの時、僕が捕まれば良かったなって思うんだ)」
それを聞いてルビアはシルバの頭をわしゃわしゃと撫でて、
「大丈夫よ。お姉さん達はこれでも大魔王討伐をしていたのよ? すぐ助けるわ」
「(うん!)」
「それじゃそろそろ話を聞いてみましょうか。まったくこれじゃ誰が主人公だか分かったもんじゃ――」
と、ぶつぶつ言い始めた瞬間、後ろから声をかけられた。
「あの、すみません」
「!?」
気づかなかった、とルビアは慌てて距離を取る。振り返るとそこには少し気の弱そうな男性が立って愛想笑いをしていた。
「(大魔王討伐のこと、聞かれた? というか気配を感じなかったんだけど……)」
ルビアが訝しんでいると、男は口を開く。
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