挙―1

 的を割った報酬は得られなかった。しかし【製造】には変化があった。この潰れた的が材料?

 もう一つ材料があれば作れるみたい。次の【訓練】を選択する。


 次の的は、とげとげしい半球だった。棒で突いてみると、モソりと動いた。今回も動くらしい。とりあえず振りかぶり叩きつけてみた。


 ……変な感触。とげとげに刺さった。赤い液体は出ていない。割れなかったらしい。

 棒を持ち上げると、とげとげが刺さったまま持ち上がった。短い足をバタつかせている。棒を左右に動かしても、とげとげは抜けずに棒に刺さっていた。


 床や壁に打ち付けていくと、とげとげの動きは鈍くなった。所々赤い液体が出て来ている。ふむふむ……とげではなく、足を打てば良いのかな。


 終わってみると変な的だった。とげで攻めるでもなく、動くでもなく。


『撃破を確認しました。訓練達成報酬が支給されます。』


 動かなくなった的を眺めていると、視界内に文章が表示され、細い棒の束が落ちてきた。とげ? 木の棒よりも堅そう。

 ……あれ? いつの間にかがどこかに行っちゃった。消えたり消えなかったりするみたい。


 リングコマンドの【製造】に『NEW!』と表示されている。材料が集まったらしい。選択っと。


『完了まで1タームです。周囲を確認してください。』


 周囲? 2つの的だったモノしかない。扉にも異常なさそう。射出用ポッドも変わりなし。

 確認し終えたところで棒を持つ腕が


 ああ、作られていく。


 【状態確認】に表示されているチョークアウトラインが変化した。木の棒の先端から5本の赤黒いトゲが同じ向きに生えている。名前は『ピッチフォーク』らしい。叩くよりは突く腕かな。

 だらんと腕を垂らすと、先端が床に触れそうになる。気をつけないと。


『武器が更新されました。訓練にて武器を確認してください。隣接区域の適正武器は、2ターム後に解放されます。』


 適正武器。この腕は適正ではないらしい。もう少し【訓練】をした方が良いかな。





 結果から言うと、簡単だった。曲がった角を持つ的は真っすぐに走ってきて刺さったし、足も首も無い的は床で跳ねているだけだった。【訓練】の報酬は茶色の曲がった角と半透明な小片うろこ。次に作るモノが何なのかな。


『製造にて情報が更新されました。』


 お、更新。材料はそろってるみたいだから、このまま作っちゃおう。

 選択すると、フォークとは逆の腕が落ちた。


『完了まで1タームです。周囲を確認してください。』


 特に何もないので待つことにする。床に転がる腕と肩口の捥げた部分が、ブクブクと泡を吹いていた。





『武器が更新されました。隣接区域にて採取してください。訓練ではありません。周囲を警戒してください。』


 【状態確認】に変化は見られなかった。何も変わっていない? でも色は変わってる。曲がった角の色をした小片が、腕を満遍なく覆い……光を反射していた。動きに支障がないし良いのかな。試射してみたい。

 【訓練】にて動かない的を選び撃ってみると、左腕から腕の太さほどの液体が射出された。腕の先端の小片が動くと射出口になっているようだ。覗き込もうにも見れなかった。残念。

 弾速は目で追える程度。的に当たった衝撃でグラつきはするものの割れなかった。木の棒よりも弱い?

 何度か撃っていると、的を割れていないのに撃てなくなってしまった。射出口が空気を吸い込んでいる。壊れちゃったかな? 【状態確認】には何も出てないけれど。


 一通り的を倒してみて分かったこと。左腕の液体で赤い液体を流せる、しばらく吸い込むと再度撃つ事ができる、やっぱり割れない。

 扉の向こうに行かないと材料は手に入らないみたい。……行こ。




 扉を開けると、左右に伸びた通路だった。部屋の中と同じ材質に見える。点々と赤い液体が付着して、何かが右から左に這って行ったような跡がある。右に行こう。怖くない。


 道なりに進むと、いくつか部屋を見つけた。中は通路と同じように赤い液体が付いていた。動く的はいないようだ。物色して硬そうなモノを持ち出していく。何か作れたら良いな。


 足取り軽く射出ポッドのある部屋に戻っていくと、遠くから振動が伝わってきて視界に赤い点が表示された。方向を指しているのかな。通路の突き当たりを右に行ったところにいるみたい。

 持ち出したモノを床に置き、右手のフォークを前方に向け進む。通路なのだから迎え撃つには良いけれど、持ち出したモノにあまりキズをつけたくない。それに【訓練】は簡単だった。見えたら突くだけ。


 角からチラっと顔を出した黄色の毛にベージュの動く的は、【訓練】の的よりも大きかった。濃い緑色の服めいさいふくを着ている。突き出したフォークは的の中央付近をかすった程度だった。割れていない。もう一度突かないと……。

 右腕を引き、警戒しながら角を回り込むように動く。少し離れたところで赤い液体を垂らした的が、こっちを見ていた。黒い筒——持ち出したモノにもあった——を向けて。


「いったた……そんな警戒しないでよ。敵じゃ——」





 何か動いていたが突進し、右腕に確かな手応えを感じた。

 その時、黒い筒から激しい光が吹き出し、左肩に強い衝撃が走る。


 攻撃された……? 警戒するのは、こういう事態のためだったんだ。


 【状態確認】の左腕が赤く点滅している。左腕が動かない。この的は危険だと初めて認識した。距離を取らねば。

 右腕を引くが抜けない。何かに引っかかっているようだ。上下左右に動かしても抜けなかった。的も動き、黒い筒が少し下を向く。

 黒い筒から二度目の激しい光が噴き出した時、急に脚部が動かなくなった。何? 何が起こってる? 何かできる事は? 何ができる? 


 【状態確認】の右足が赤く点滅した。


『30%損傷を確認。オートモードへ移行します。』


 

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