第13話 これから

女将さんが調理の手を止めるとこちらへ向かってきます。出入り口近くのテーブルに女将さんが手に持っていたものが置かれました。あれはなんでしょうか…


「これくらいしかしてやれないけど…私はあんた達に世話になったからねほんとに短い期間だったけどさ。まあ、これを持ってさっさとどこへでも行っちまいなっ」


それだけいうと女将さんは入り口に背を向け再び厨房へと戻っていきます。そしてこちらには一切視線を向ける様子もありません。


『なんなのじゃ…?』


彼女が首を傾げるのも当たり前のことでしょう。私にもよくわからないのですから。とりあえず女将さんがテーブルに置いた包みを確認してみます。見たところ危険なものではなさそうです。持ち上げてみますとほんのりと温かく鼻に刺激を与える匂いがしました。私は女将に視線を送ると声には出さずに心の中でお礼を言うのでした。


そっと宿から出た私達は町の中で走り回る人たちを回避しながら南側…精霊の森へと足を向けます。もちろんその中へと入るわけではありません。中に入ってしまうとたちまち私の魔法は解けてしまうでしょうからね。その手前で立ち止まり建物の陰に隠れ周りを伺います。


『これからどうするつもりなのじゃっ』


私の行動に不安を覚えたのか彼女が聞いてきます。そもそも彼女が勇者を名乗ってしまったことが原因なのですが、まあ今はいいでしょう。

自分一人だけ姿を現すと小声で魔法を唱えます。これは本来ならあまり使いたくない魔法です。常時魔力を消耗するものですから今まででしたら絶対にやらなかったでしょう。ですが今は魔王という職をえたことにより魔力だけは潤沢にあります。


「な…なんなのじゃ…それはっ!」


私の様子に気が付いた彼女は声を潜めるのも忘れ大きな声を上げます。


「おい、こっちに誰かいるぞ!」

「あいつらか?」


バタバタと走ってくる音が近づいてきます。私達を探している人達だと思われますが、声を上げた彼女は今はそれに気が付き自ら口を押えておりますので見つかることはないでしょう。見つかるのは私だけですね。


「なんだ…ただのガキか」

「さがしてるのも子供だろう?」

「ああだが小さな女の子と背の高い男だって話だぞ」

「なんだ…騒がせやがって」


言いたい放題いい終えた男達は再びどこかへと走り去っていきます。


『アルクウェイよ…説明が欲しいのじゃ』

『わかりました…でもその前に今度はマノン様を整えてからですね』


私は空間庫から道具を取り出すと彼女の髪の毛に手を伸ばしました。


大体一時間くらいでしょうか…そのくらいの時間をかけお互いの姿を今までと全く違う状態に整え終りました。まず彼女ですが腰のあたりまである長いまっすぐな銀髪をすべて巻き上げました。あれですいわゆる縦ロールってやつですね。ほんの少しあっただけの人達ならこのくらいでごまかされるでしょう。ただそこにそのままの私がいたら気が付かれてしまうかもしれません。ですので私はかなり変える必要がありました。今は魔法を使用し彼女と変わらないくらいの年齢に見えるようにしております。幼い子供が2人で歩いているようにしか見えないことでしょう。彼女は少しばかり納得のいかない顔をしておりましたがおおむね理解はしてくれたようです。


「見た目はこれでいいでしょうが…このままでは困りますよね」

「そうなのじゃ。レベルもお金もいるのじゃぞっ」

「では冒険登録証を貸してください」

「これか…?」


私は彼女から登録証を受け取ると自分の登録証も空間庫から取り出しました。その二つを手に持ち私はおもむろに精霊の森へと投げ入れました。


「…は? ちょっ なぜ捨てるのじゃっ」

「新しい身分を手に入れることにしましょうか」


にっこりと私は彼女に笑顔を向けるとこれからのことについて説明をするのでした。

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