遠い目

「お待たせしました。如月那緒お手製、渾身のお弁当です」

「え、うそ?」

「嘘じゃありません」

「重箱じゃん」

「すみません。あれも食べてもらいたい、これも食べてもらいたいと思っていたら、こうなってしまいました」

「これはまた……彩もおきれいで……」

「このお弁当を作るために、4時起きしちゃいました」

「き、今日は早く帰ってすぐ寝てくださいね?」

「お気遣いありがとうございます。どうぞ召し上がってみてください」

「いただきまーす……」

「どうですか?」

「美味しい……」

「言わされてません?」

「言わされてない。一口目の時点でよく分かる。めちゃくちゃ美味しい」

「良かったぁ、そう言ってくれて。頑張った甲斐がありました」

「このレベルが来るとは思ってなくて今なにも持ってないんだけど、さすがにお礼がしたい」

「それなら、今度映画代出してください」

「それでいいのか?」

「本当は2人で映画に行ければ、それでいいんですけどね」

「お前はもう少し欲を持ったほうがいい」

「ありますよ、欲。一生離れたくないなっていう、深いものが」

「そうかぁ……」

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