ステータスオープン物
私は一人で塔の中にいた。
何故、塔の中に一人いたのかは知らぬ。しばし考えてみたところで、この様な事がどうして身に起きたのかはわからぬ。わからぬものはわからぬのだ。
とりあえずは辺りを散策するのがよいだろう。入れられたのならば入り口もしくは出口がある筈なのだから。
前には通路があり、背には積まれた石の壁があった。その石の何処かを押せばカラクリで出口が出てくるのではないかと手当たり次第押してみても手応えはない。
ならば前に進むしかないのだろう。私はおそるおそる進む事にしたのだ。
どのくらい歩いたのかは知らぬ。前は未だ薄暗く、通路がずぅっと続き、振り返れば進んできたこの先が続いており、最初にいた石の壁はもう見えぬのだ。
何度となく立ちどまっては振り返れども、それは変わらぬ事であった。
歩けど、進めど景色は変わらず私のストレスもマッハである。
信仰を一度もしていなかった神へ呪詛を心の中で吐きながら進む。いっその事、私にその神から天罰でも下り、このクソッタレな所から救ってくれとさえ思う。
私が脳内の神の首を十数回程絞め殺した頃であろうか。
ついに変化が訪れたのである。あまりよろしくはない変化が。
私の前をゲル状の球体が立ち塞がったのである。
(あれはスライムなる魔物ではないか)
かのスライムのごとき生物については説明不要な気もするが、さりとて知らぬ者もいよう。
スライムとはゲル状のファンタジーな生物であり、可愛らしい造形のマスコットキャラクターであったり、衣類を溶かし女体を嬲ったり、ボットン便所の下で人の排泄物を処理させられたり、子供に簡単に退治させらり、一人前の戦士を簡単に殺す恐ろしい生物であったりと、様々な役割を持つ生き物である。
目の前のスライムはどの役割であろうか。
私は口の中に溜まった唾をゴクリと大きな音を立てて飲み込む。
フルフルと震えているスライムの出方を伺いながらそろりそろりと近寄る。一歩。また一歩。
未だスライムは震えるばかりだ。
そして
「きぇぇぇい!」
確かな弾力が爪先に当たり、スライムは大きく空を飛び、ベチャ!と壁にぶつかっては体液を飛び散らせ、数枚の硬貨を残して消えた。
ハァハァ。
ただ蹴り飛ばしただけ。それでも私は未知の生物との邂逅と戦闘に大きく疲労した。
呼吸が整え、私は落ちていた硬貨を拾い上げ眺める。
……どこの国の硬貨かはわからなかった。
それから進めばたまにスライムが道を塞ぎ、段々と慣れてきたからか作業的に蹴飛ばす。するとスライムはコインを落とすし、コインでない物も稀に落とす。
草であったり、ナイフであったり、革の鎧やローブの様なものまで。
革の鎧はスライムの体積よりあからさまに大きい。そもそも透明なゲルであるスライムがどこにそれを隠していたのかも不明ではあるが。
ここまでくれば流石の私も察する事が出来た。
なるほど。これはゲームの様な世界であったか。
それも進む、戻るを繰り返し、ステータスなる身体能力を上げ、ニヤニヤする。その様なテレビゲームの世界。
ほほう、ほう。
「ステータスオープン」
私の景気の良い叫び声がこの通路に反響する。
私/戦士 Lv.3 16歳 ♀
str 4 +2
def 2 +4
spd 6
int 2
luc 0
#ナイフ #革の鎧 くさ? くさ?
ふむふむ。
「ステータスオープン」
私私/戦士 LLv.3 116歳 ♀♀
sstr 4 +2
ddef 2 +4
sspd 6
iint 2
lluc 0
##ナイフ ##革の鎧 くくさ? くくさ?
ん?
「ステータスオープン」
私私私/戦士 LLLv.3 1116歳 ♀♀♀
ssstr 4 +2
dddef 2 +4
ssspd 6
iiint 2
llluc 0
###ナイフ ###革の鎧 くくくさ? くくくさ?
……
「ステータスオープン!」
私私私私戦士LLLLv.1116♀♀♀♀
sssstr4 +2
ddddef2 +4
sssspd6
iiiint2
lllluc0
####イフ ####の鎧 くくくく?? くくくくく??
なるほど。
ステータスオープンにステータスオープンを重ねると不具合が発生するみたいだ。
それから全部閉じ、念じる。
「ステータスオープン」
私/戦士 Lv.3 16歳 ♀
str 4 +2
def 2 +4
spd 6
int 2
luc 0
#ナイフ #革の鎧 くさ? くさ?
再度表示されたステータス画面を眺めれば正常である。ふぅ。私の口から安堵のため息も漏れでる。
この不具合はウインドを一度閉じれば戻る類のであった。
不具合を起こしながら進む。たまにスライムを蹴り飛ばす。
しかし先程から同じスライムしか出てこない様ではないか。
私の記憶では一種類のモンスターしか出てこないゲームは……なくはないが、この類では珍しいだろう。
何より飽きる。まるで体験版か未完せ……
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