2063/05/17Sat.(6)

 二人がカレーを食べ終えた頃には、らせん階段の横にある大きな骨董時計は14:40を回っていた。


「いい時間ね。じゃ、そろそろ出よっか」


咲良はそう言うと帽子を被って出口付近にある無人のレジに向かった。レジの横にはカフェや掲示板に因んだグッズが色々と置かれていた。その中にあった一枚の絵はがきに陸の目が留まる。それは咲良が話していた『光の道』の絵はがきだった。


「咲良の言う通り綺麗だね。生で見るともっとすごそう」


興奮気味の陸を見た咲良は、


「じゃーお土産にしよ」


絵はがきを二枚手に取ると、清算用の端末に手をかざした。


すると、「お会計は3280円になります」


という音声ガイドが端末から流れた。咲良は陸の方を振り返り、


「今回は私のおごり。バイト代出たばかりだからご安心を」


と言って端末に手を押し当てた。すると今度は「シャーン」という電子音がした後に、


「ご利用ありがとうございました、日向様」


と先程と同じ音声が流れた。陸は初めて見る会計方法に呆気に取られていたが、


「ありがとう、次はおごるから」


咲良は、「へー楽しみにしておくね」と言ってドアを開けた。


 店の外に出ると、空には陽の光を遮るように白い雲が広がっており、辺りは若干暗くなっていた。陸が腕時計に視線を落とすと、ストップウオッチのカウントは2:47:55で時間はほとんど残っていなかった。


「俺、時間ないからもう帰らないと。咲良はどうする?」


内心、陸はもっと咲良と一緒にいたかったが、VRの3時間という時間の制約だけは如何ともし難かった。


「じゃ、私も帰ろっかな。急げば補講に間に合うかもしれないし。今日は楽しかったよ、ありがとう」


咲良は少し寂しげな表情で言った。


「こちらこそ、ドッキリありがとう、楽しかったよ」


陸は咲良を元気付けようと滅多に口にしない冗談を言った。


「ふふふ。陸くんも冗談言うんだ。じゃー私こっちだから。また今度ね」


咲良は公園を背にして歩き始めたが、10メートルも行かないうちに何か思い出たように振り返り、


「掲示板、メッセージ書くからちゃんと見てね」


と手を振った。陸も笑顔で手を振り返した。そして、咲良の姿が坂の向こう側に消えるのを見届けると、陸は一人、公園の方に向かって歩き出した。

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