2063/05/26Mon.(6)

無題 2060/05/24-20:40

『今日は加地公園で陸くんのお気に入りの場所に連れて行ってもらいました。しかもそこで素敵な指輪をもらいました。突然のことでびっくりしたけど、嬉しかったです。ありがとう。その時撮った写真がこれ!!私のお気に入りの一枚になりそうです』


二つ目のメッセージは夢で見た内容に沿うものだった。メッセージに添付されていた写真を開く陸。それは先日、陸が夢で携帯の画面越しに見た光景であり、咲良の最初の書き込みに添付されていた写真と同じであった。写真には笑顔でピースサインをしている咲良の後ろに木製のベンチと青々とした若葉を付けた樹々が写り込んでいる。写真を見た咲良は、


「ここが陸くんのお気に入りの場所?何か今の加地公園とはだいぶイメージが違うみたいだけど。こんな森ってあったっけ?」


「ネットの情報だけど二年前に大きな火事があって、森のほとんどが焼けちゃったらしいから、そのせいだと思うよ」


「へぇー詳しいんだね」と感心した様子の咲良。


「咲良と初めて会う前に色々と下調べをしたからね。ほら、この記事」


と陸は自慢げに返した。記事の見出しには、


『2060年5月30日、VR内の公園で原因不明の大規模火災。園内の森林はほぼ焼失したものの奇跡的にVR利用者の犠牲はゼロ』


咲良は記事を一瞥するとあまり興味のない様子で、


「へーこっちの世界のことがニュースになるってよっぽどのことね。それはそうと、この場所ってこの前私達がケンカした場所と同じかな?」


陸は写真を指差しながら、


「後ろに写っているベンチと木の感じからすると、同じ場所じゃないかな。ほら、この木なんて今でもあるし。それにしてもケンカした場所って」


「ごめん、ごめん。場所ね。記憶が消えても好みは変わらないんだね。でも、何もヒントになりそうなものないよね。最後のメッセージも見てみない?」


咲良に促され、陸は三つ目のメッセージを開いた。


無題 2063/05/31-16:30

『今日は、この前貰った指輪のお返しに陸くんにミサンガをプレゼントしました。ミサンガは大昔に流行ったものみたいで、それが切れる時に願い事が叶うそうです。私、不器用なのであまり上手く編めなかったけど、喜んでくれて良かったです』


「これって咲良のプレゼントだったのか。ボロボロで色褪せてるから、古いものだとは思ってたけど。それにしても、これにはそんな謂れがあるんだ」


陸は腕を持ち上げ、手首のミサンガに目をやった。


「でも、私、不器用なのに何でわざわざ自分で作ったんだろ?私の性格的には買ってプレゼントすると思うんだけどな」


「そっちの方が心がこもってていいんじゃない?咲良の指輪と一緒でずっと付けてるよ、このミサンガ」


「でもさ、指輪とかミサンガは消えないんだね。消えるのは記憶だけってことかな?このメッセージを見てると、三年前の私達って記憶が消えることに気付かなかったんだろうね。でも、そっちの方が幸せだったのかも・・・」


咲良はネックレスの指輪を見ながら寂しげに呟いた。


 ホールでは昼食が終わったようで、廊下からは話し声に混じって食器を片付ける音が聞こえてきた。気付けば時計の針は13:00を回っていた。時計を見た咲良は慌てた様子で、


「あっ、もうこんな時間。私、そろそろ行かないと。今日は午後から、明日は一日中、講義があるから」


「じゃーまた明後日か。俺の方でも色々考えてみるよ」


「うん、分かった。じゃーまた水曜日にね」


そう言うと咲良は病室を後にした。

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