2063/05/18Sun.(2)
『riku&sakura206205』
朝食に添えられていたメニュー表を裏返し、夢の中で見たパスワードを書き殴る陸。前半部分はほぼ同じであったが、後半の年代と思われる部分が『2062』、一年前になっていた。陸はメモした紙を眺めながら、
「やっぱり、これって掲示板のパスワードだよな」
陸の頭の中に最初に思い浮かんだのは、アーカイブに保存されていた過去の書き込みだった。陸は再びタブレットを手に取ると、掲示板のホーム画面に戻り、その左下に表示されているアーカイブボタンをタップした。画面には8つの無題と書かれた書き込みと日付。その内の一つは先ほど確認した咲良からの書き込みだった。2062年の書き込みは二つ。
無題 2062/05/18-08:05
無題 2062/05/31-16:10
その内古い方を選択すると、先ほどと同じようにパスワードの入力欄が表示された。夢の中で見たパスワードを入力する陸。冗談半分で試したつもりだったが・・・驚くべきことにパスワードは認証されメッセージが開いた。
無題 2062/05/18-8:05
『昨日はサンセットカフェ楽しかったね。私の暮らしている世界もなかなかでしょ?それにしても、陸くんがあんなにカレーが好きだとは思わなかったよ。今日は病院のVR研修は休みなので、また、月曜日にお邪魔します、バイバイ P.S.絵はがきは月曜日にでも持って行くね』
偶然だろうか、奇妙なことについ先ほど閲覧した咲良のメッセージと同じような文面だった。
「えっ、これって。前にも一緒にサンセットカフェに行ってたってこと?」
驚きのあまり心の中で思ったことをそのまま口に出してしまう陸。ただ、俄かには信じ難かった。昨日の咲良との会話からはそのことを全く感じ取ることができなかったからだ。陸には咲良が嘘を付いているようにはどうしても見えなかった。
陸がさらに気になったのは、『私の暮らしている世界』と『VR研修』という二つの言葉の意味だった。
「昨日、咲良は看護学生だと言ってたけど、VR研修ってなんだ?看護実習のこと?でも、私の世界って・・・」
論理的に考えようとすればするほど、余計に頭が混乱していく。このままでは埒が明かないと考えた陸は、2062年の日付の入ったもう一つのメッセージを開いてみることにした。こちらも同じパスワードで開くことができた。二つ目の書き込みは、先ほどの明るい雰囲気の文面から一転、悲壮感の漂うものだった・・・
無題 2041/05/31-16:10
『昨日はVR研修最終日でした・・・来週から会えなくなると考えるととても寂しい。この一か月本当に楽しかったよ、ありがとう。直接言いたかったけど、たとえ記憶が消えても、私がきっと陸くんを探しに行くから待ってて。そして、今度こそ二人で光の道を見ようね』
やはりここにも『VR研修』の文字があった。
「咲良は看護研修で俺の病院に来てて、それをVR研修と呼んでいるとすれば・・・」
陸は自分の導き出した結論があまりに衝撃的でそれ以上声に出せない。
「しかも、記憶が消えるって?どういう・・・」
もはや陸の想像の範疇を超え、自分が勝手に妄想しているのではと感じるほどだった。誰かに自分の頭をクールダウンさせてもらいかったが、こんな突拍子もない話にまともにとり合ってくれる人がいるはずもなかった。陸はしばらく考えた後、
「やっぱり、咲良に会って直接確認するしかないよな。それでまた咲良にドッキリ大成功と言われたら、笑い話にすればいいし・・・」
そう独り言を呟きながら、タブレットのキーボードを開き、メッセージを打ち込む。
『早速だけど、来週、都合のよい日でいいので、また加地公園で会えませんか?ちょっとー話したいことがあるので』
文章の入力が終わり、書き込みを実行する段階にきてもパスワードを設定する画面は表示されなかった。陸は色々操作してみたものの、結局パスワードの設定の仕方は分からず、諦めてそのまま決定ボタンをタップした。
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