第218話 ガーネットは道具じゃない!

「……ふん、そうか。なら仕方ないのう。わしとお主はいずれにせよ戦う運命にあるということじゃ」


 ルリはそう言い、マントを大きな翼の形に変えた。

 その翼は、魔央と同じような蝙蝠デザインだ。

 だが、魔央のマントよりも大きく、ガーネットが見せた堕天使の翼のような威圧感がある。


「ノーネーム、お主は眠っているがいい」


 ルリが自分の手に持っている本――ガーネットに呼びかけると、ガーネットの周囲にどす黒い霧が発生した。

 ガーネットを眠らせて、一体何がしたいのだろう。


「……ねぇ、ルリさん。あなたはどうして“ガーネット”って呼ばないんですか?」

「はぁ?」

「ガーネットはガーネットです……ガーネットは、あなたの道具じゃない!」


 結衣が叫ぶと、みんなはハッとしたような顔を浮かべる。

 そうだ……ガーネットは結衣の、一番の相棒なのだ。

 結衣は願いを叶えてくれるための道具としてではなく、友だちのような想いで接していた。

 そのことを、ここにいる誰もが知っている。

 ……ただ一人を除いて。


「何を言ってるんじゃ、お主は。こやつはわしのもの――お主こそ、勝手にわしのものに名前をつけるな」


 ルリは結衣を睨み、ガーネットを檻に入れる。

 漆黒の――魔法でできた檻は、何よりも頑丈そうに見えた。

 だけど、ルリの手に収まるようなサイズのため、極大魔法でもぶっぱなせば何とかなりそうにも見える。


 でも、本気の魔女の力を見たことがないため、あの檻がどれだけ頑丈なのかがわからない。

 それに、その魔法がガーネットに当たってしまうかもしれない。


「……そう、そっちがその気なら……仕方ないよね……」


 そう呟き、結衣は魔央に近づく。

 突然結衣に近寄られた魔央は、驚いて目を見開いている。


「魔央……そういえば前に、私の中に入ったことがあるよね?」

「……は? いきなり何の話だよ……」

「あの魔王モード……緋依さんと戦った時の……魔央が入ってたんでしょ?」

「あ、あー……まあ……そうだけど……」


 確信を得た結衣は、魔央にとんでもないお願いをする。


「――もう一度、私の中に入ってくれない?」

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