第211話 滅びに向かっている世界

「お? 来たか」

「ガーネットを返してっ!」


 ガーネットの首に片腕を巻き付けたまま、ラスボスは結衣たちを一瞥する。

 魔法少女姿となった結衣たちを見て満足そうに口角を少しあげた。


「嬉しいのぉ。わしの言うことを聞いてくれて。褒めてつかわす」

「そういうのまじいらねーから。さっさとガーネットをこっちに渡せ!」


 魔央が声を荒らげるも、ラスボスは人懐っこい笑みを浮かべている。

 葡萄色の腰まで伸びた長い髪、黒曜石のような真っ黒な瞳、黒装束に大きなとんがり帽子。

 それは、まるで――童話に出てくる“魔女”のイメージそのものだ。


「……ま、魔女……?」


 結衣は声を震わせながら、ラスボスを指さした。

 魔法少女姿になった今だからこそ見える、圧倒的なまでの魔力。

 そして感じる負のオーラ。

 魔法少女は願いを糧とする存在だが、魔女もそうなのだろうか。


「ご明察。わしが今現在現役で活動している唯一の魔女じゃ」


 目の前の魔女は、結衣たちと同じぐらいの歳に見える。

 だが、口調や本物の魔女という確認が取れたこともあり、年齢は結衣たちよりかなり上ということが予測できた。


「んー、そうじゃなぁ。わしはラピスラズリ、と名乗っておこうかの。まあ、長いし呼びづらいじゃろうから――“ルリ”、と呼んでほしいのじゃ!」


 明るく無邪気に振舞っているが、ラピスラズリ――いや、ルリの本心は計り知れない。


「じ、じゃあ……ルリさん。あなたは……何をしようとしているんですか?」


 結衣が放った言葉に、ルリとガーネット以外の全員が息をのむ。

 だが当のルリは、ポカンとした顔をしている。


「……え? ノーネームに聞いてないのか?」

「の、ノーネーム?」

「そうじゃ。わしの腕の中の――って、今はガーネット……だったか?」


 ノーネーム、つまり名前がないこと。

 親のような魔術師から名を与えられず、結衣に出会う前は名無しだったガーネットがそれに当てはまる。

 ……ルリは、『なっちゃん』とは呼ばなかったのだろうか。


「それで? 何をしようとしている、だったか? 簡単じゃよ」


 そう言うと、ルリは一呼吸置き、黒曜石のような真っ黒な瞳を結衣たちに向けて言う。


「――この世界をループさせ、世界の滅びを防ぐことじゃ」

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