カスミの過去Ⅱ

 自分が嫌になって、なり続けて。

 気づいた時には、自暴自棄になっていた。


 どうすれば簡単に、楽に死ねるのだろうということをずっと考えるようになったのだ。

 両親が会いに来てくれないのなら、自分から会いに行くしかない。

 そう、思っていたのに――


『これからはこんなふうに笑い合おうよ!』


 こんな言葉を、かけてくれた人がいた。

 こんな自分には、もったいないぐらいの優しい言葉。


『……この前のことは、チャラにしてあげるからさ』


 一番年下の夏音を利用した酷い自分を許してくれた。

 その言葉を聞いて、一生ついて行こうと決意した。

 チョロいと思われるかもしれないが、自己嫌悪に陥っていたカスミにとって結衣は救世主なのである。


「結衣サン……」


 ずっと暗闇を彷徨っていたカスミに、久しぶりの光が差し込む。

 自分に手を差し伸べる結衣の顔は、笑っていた。


 ――どうしてそんなくだらないことで悩んでいるの?


 そう、言われたような気がしたのだ。

 そんな結衣の手をとった時、自分の中で何かが変わったような感覚を得た。


 自分にも何か出来ることはある。

 いや、自分出来ないことがきっとあるだろう。

 そう確信した。


 結衣がいなければ、そのことに気づけなかったかもしれない。

 それどころか、カスミ自身がこの世にいなかったかもしれない。


「……見ていてクダサイ。お父サン、お母サン」


 笑顔で呟いたカスミは、大きな青い空に向かって――飛んでいった。

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