第144話 カオスな空間

「……なんかごめんね……」

「いや、別にええよ? それにしてもどないしたん?」

「う、うーん……」


 あれから結衣はずっと心ここに在らずという感じで、ボーッと突っ立っていた。


 そこを他のクラスの先生に見つかり、なんとか我に返ることができたというわけなのだ。

 そして今、最終地点の辺りをグループでまとまって歩いている。


「なんて言うか……自分が自分じゃなくなったと言いますか……」

「よ、よくわからんけど……一大事だったことは伝わったわ……」


 結衣はまだ顔に赤いものを残したまま、とりあえず明葉に謝った。

 なぜ自分でもあんなふうになったのか分からないから、明葉には謝ることしか出来ない。


 結衣は未だ混乱する頭を横に振り、忘れ去ろうと努める。


「……よし。もう大丈夫!」

「お〜……それはよかったわぁ……」


 頬を両手でパンッと叩き、眼を鋭く光らせた。

 明葉は結衣の変わり身の速さに、若干引く。

 そして、結衣から距離をとろうとしている。


「え、なんでちょっと遠ざかってくの!?」


 それに気づいた結衣が、明葉に向かって声を張り上げる。

 すると明葉は苦笑いしてこう言った。


「だって……少し怖いんやもん……」

「何それ!?」


 そんなふうにギャーギャー騒ぐ結衣たちに、近寄る影が一つ。

 その影は二人の背後に立ち、そして――


「……お前たち、もう少し静かにしろ……」

「えあっ!? ……あ、水谷先生……」


 低く唸るような声で咎める。

 二人はその声に身の危険を感じ、身体を震わせた。


 蛇に睨まれたカエルの如く、その場から動くことが出来なくなってしまったのだ。

 水谷先生はため息をつき、固まった二人の背中を押していくのだった。

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