第105話 宝の地図……?

「ねぇねぇ、聞いた?」

「うんうん! あの『お宝が埋まっている地図』が見つかったってやつでしょ?」

「そうそれ! 私たちもお宝見つけたいよね〜」

「ね〜!」


 様々な、元気な声が飛び交う咲姫小学校。

 そんな小学校に、一つのある噂が流れ始めていた。


「宝探し?」

「そうなんよ! 一緒にやってくれへん?」


 目を輝かせて迫ってくる明葉。

 ものすごく嫌な予感しかしない。


 結衣はそう思うも、好奇心がうずく。

 『宝探し』――そう聞くだけで、わくわくする。


「うーん……そうだなぁ……暇だし、少し気になるから行ってみたいな」

「ほんま!? うふふ、嬉しいわぁ……!」


 朗らかに笑う奥ゆかしさが、すごく素敵だ。

 それでいて、おちゃめな部分も含まれている。


 これは、最強なのではないだろうか。


「結衣さん……? 行かへんの?」

「へあっ!? ご、ごめん! 今行くっ!」


 こうして、結衣たちの宝探しが始まった。


 ☆ ☆ ☆


 いつもなら人の少ない図書室が、人で溢れかえっている。


「なっ……! なにごとっ!?」


 結衣はそう叫ばずにはいられなかった。

 いつもは、閑古鳥が鳴いているのではと錯覚するほどなのに。


 そんな結衣の驚きに、明葉はさも当然というふうに「うんうん」と頷く。


「なんでも、ここに宝の地図が隠されてるらしいんよ」

「えっ!? ここに!?」


 図書室に宝の地図……!?

 そんなことってありえるのだろうか……

 結衣は一層、混乱に喘ぐ。


 それにしても、さすがに人が多すぎではないだろうか。

 宝探しはたしかに楽しそうではあるが。

 胡散臭さがプンプン臭っているものに、なぜこれだけの人が集まるのだろう。


 図書室に人が集まりすぎて、メインである本より、人の方が多い気さえする。

 こんなに人が密集しているところには、正直入りたくないのだが。


「……い、行こう……!」

「うん! 結衣さん、頼もしいわぁ……」

「え? えへへ……そ、そうかなぁ……?」


 勇気を出したら明葉に褒められ、結衣は照れる。

 こういうことで褒められたら、何百倍も勇気が跳ね上がりそうだ。


「じゃ、じゃあ行くよっ!」

「おー!」


 結衣と明葉は戦場へ入ってゆく。

 だが結衣は、肝心なことを聞いていないことに気が付いた。


「……そういえば、宝の地図って……どこにあるの……?」

「……あはっ……」

「え……?」


 結衣の問いかけに、明葉はただ笑うだけだ。

 肝心の場所については教えてくれない。

 というより、教えられないのだろう。


「……ま、まさか……」


 そんな結衣の言葉を肯定するように、明葉は目を伏せる。


「堪忍なぁ……」


 そして、謝罪の言葉を放つ。

 周りに人が多いのに、結衣はなぜか……寒さを覚えた。


 だが、次の瞬間には自分に喝を入れる。


「ここまで来たら仕方ない……自力で探そう!」

「へ……? うちを責めへんの……?」


 明葉の弱々しい声を聞き、結衣は力強く言い放つ。


「だって、明葉ちゃんを責めても意味ないし! 行くって決めたのは私だもん!」


 「だから――」と言って。


「大丈夫!」


 そうやって、結衣は明葉の手を握った。

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