第97話 お隣さんってまさか……

「……ん……」


 朝日が眩しい。外で小鳥がさえずっている。

 ガーネットも目の前でふよふよ浮いて――


「んえ!?」


 勢いよく飛び起きたせいか。

 盛大にガーネットとおでこでキスをした。

 その、激しく。


「いったーい……」

「いや、こっちが痛いですよぉ……急になんなんです?」


 結衣がおでこをさすって、そう呟くと。

 ガーネットが、呆れたようにそう零す。


 すでに青あざになっているおでこを押さえて、結衣は抗議する。


「だってガーネットが驚かすから!」

「驚かしたつもりはなかったんですけど!?」


 結衣が大声を張り上げると、ガーネットも負けじと食いつく。

 ガーネットの言い分によると、結衣を起こそうとして結衣の目の前にいたらしい。


 だが、青くなった結衣のおでこはそれで許したくない。

 そもそも――


「なんで今日は休みなのに起こされなきゃいけないの……?」


 なぜ休みの日、しかも朝早くに、こんなウザステッキに起こされなきゃいけないのか。

 意味がわからない、と結衣は訴える。


 そんな結衣の疑問に、ガーネットは待ってましたとばかりに声のトーンをあげる。


「実はですね? お隣の家、人が住み始めたらしいんですよぉ」

「え!? そうなの!?」


 たしかお隣は伝統的な平屋で、結構土地も家も広かった気がする。

 しかし、その分お金がかかるのか。


 このところずっと、あそこに人が住んでいるのを見たことがない。

 そんな所にどうして今更……


「うふふ。気になります? 気になりますよね!?」

「あー! わかった、わかったから! ちょっと離れよう!?」


 結衣の思考を読み取ったように、ガーネットが言う。

 結衣の顔面スレスレまで近づいて。


 結衣はため息をつきながら、ベッドから降りる。


 ガーネットの突拍子のなさとか、ウザ級のテンションの高さとか。

 色々どうにかならないものかと考えながら、結衣は仕方なく着替える。


「おほっ。結衣様も日々色々成長なされ――おっとぉ!?」

「うるさい! 少しは静かにできないの!?」


 ガーネットに鉛筆を二〜三本ぶん投げたが、躱された。


 それにしても、ガーネットはどうしてこうもアレなのだろうか。

 造られた時に、製作者がミスをしたとしか思えない。


 まあ、そもそもガーネットの存在自体よくわからないのだけれども。


 それはとりあえず置いといて。成長、しているのだろうか。

 自分ではあまりわからないし、もっと成長している人もいるだろう。


 例えば、その、真菜とかせーちゃんあたり。


「いや、いいや……とりあえずお腹空いた……」


 悲しくなってくるので、考えるのをやめよう。

 結衣はそう思いながら、部屋を出た。


 ☆ ☆ ☆


「ほああ……いつも見てるけど、やっぱすごい……」

「ここが買えるというのは、相当なお金持ちでしょうねぇ〜……」


 結衣とガーネットは、揃って感嘆の声を零す。

 いつも見慣れている建物だからこそ、そのすごさを改めて実感する。


 大きい木製の門が、結衣たちを出迎えている。

 それは威圧感を伴い、来るもの全てを拒むようなオーラを放っている。


「……す、すごい……なんか、緊張してきた……」


 ゴクリと唾を飲み込みながら、結衣が言う。

 だが、ガーネットは――


「ん? 結衣様! 表札のところ見てください!」


 門の右端の柱に掲げてある表札に目を向けた。

 結衣はガーネットに言われた通り、表札を見やる。

 すると――


「『高柳』……?」


 そこには、明葉と同じ苗字が書かれていた。


 昨日来た転校生。最近越してきたお隣さん。その表札に書かれた苗字。


 まさか。

 そんな結衣の思考を裏付けるように、門が開く。


「……え? 結衣さん……?」


 その声は風鈴のように、聞くものを心地よくする魅力があった。

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