第75話 不思議が明かされる

「じゃあ、どういうことか説明してもらえる?」

「了解です、結衣様! さてさて、皆様聞いていてくださいね!?」

「あーもう、いいから! 早く言ってよ!」


 みんなを巻き込もうとしているガーネットを引き止めて急かす。

 まあ、みんなもガーネットの話を聞こうと耳を立てているとは思うが。


「もう、そんなに急かさないでくださいよぉ。ちゃんと分かりやすく説明しますのでぇ」


 ニヤニヤという疑問を引き連れているように所々(笑)を入れている言葉に、若干イラッとした。

 だが、結衣の苛立ちなどどうでもいいのか、毅然と説明し始める。


「さて、何故大鏡から光が出たのかと言いますと……」


 そこまで言って言葉を切ると、ズビシッとガーネットが窓を指さしたように見えた。

 だけど、窓の先には坂道が上に向かって伸びているだけだ。


「窓に何かあるんですにゃ?」

「ふっふっふ。夏音様、窓ではないんですよ。“その先”の景色が重要なのでぇす!」

「……えーと、どういうこと……?」


 夏音ちゃんの疑問を一蹴し、ガーネットは面白そうに言う。

 結衣は――というか、ガーネット以外みんな分かっていない様子で、首を傾げている。


 それでも……否、それこそが心底楽しいという様子で興奮気味に言い放つ。


「この坂道に、何があると思います?」

「「「?」」」


 結衣たちはガーネットの言葉に一層疑問符を浮かべ、窓の方へ歩み寄っていく。

 しかし、いくら見ても普通にコンクリートでできた坂道があるだけだ。


 しかし、真菜は何かに気付いたのか。


「……かが、み……?」


 坂道の何かを見ながらポツリと呟いた。

 それを聞き逃さなかったガーネットが「お見事!」と言う。


「さすがは真菜様! 鋭いですねぇ!」

「え……そ、そう……?」


 ガーネットが、真菜を突然褒めだす。

 真菜は満更でもないのか、頬を紅く染めている。


「――で、どういうことなの?」


 まだ謎を解明出来ていないことと、それをあっさり解明したガーネットと真菜のことに、若干イラつきながら訊いた。


 だが、ガーネットは見事に結衣の神経を逆撫でした。


「ぶふっ。結衣様ぁ、まだ分からないんですかぁ?」


 ――ブチッ。


「ぎゃああああ! ちぎれる! ちぎれます〜〜!!」

「うっさい! 天誅じゃ!」

「……何キャラですにゃ?」

「そんなに……騒ぐと、人が……来ちゃう、よ……?」


 ガーネットは雑巾みたいに絞られ。

 結衣はガーネットを絞っていて。

 夏音はそれを半眼で見ていて。

 真菜はオロオロと不安そうに眺めている。


 ――これこそカオスだろう。

 と、そこで大鏡が目に入り、結衣は我に返った。


「はっ! こんなことしてる場合じゃない!」


 結衣がパッとガーネットを解放すると、ガーネットは身震いして結衣から距離をとる。


「ひいぃ……結衣様、暴力反対ですぅ〜!」

「ごめんごめん。ガーネットが私をイラつかせなければもうやらないよ♡」

「どす黒いオーラが見えますにゃ……」


 ガーネットは生まれたての子鹿――というか、バイブのように震えている。

 結衣はそれをどす黒い笑みで見つめていて、夏音がそれを察した。


「わかった! わかりました! ちゃんと説明しますからぁ!」


 ガーネットはぷるぷる震えて、真菜の背中に隠れながら叫んだ。

 そして、ガーネットは気持ちを切り替えるためか、ゴホンと咳払いを一つ。


「真菜様が仰った通り、あの坂道には車用のミラーがあります。あの部分はT字路になっているのですよ」


 つまり。


「あのミラーと太陽の傾き加減によりミラーに太陽の光が写り込み、あのミラーが光った所がちょうど階段の大鏡に写り込んだ――ということなのです」


 ……そう、つまり。


 太陽の傾き加減により、四時半にそれが一時的に引き起こされる……ということで。

 それはもう。


「不思議でもなんでもないじゃん……」


 ――そう。


 タネが明かされれば、マジックなんて誰でも出来るわけで。

 七不思議も、その謎が起こる原因を突き止めれば何も不思議じゃなくなるわけで。


「なんか……もう、疲れちゃった……」


 結衣は寝不足だったことを思い出し、急に睡魔が襲ってきた。

 真菜も夏音も、すごく落ち込んでいるのが目に見える。


「もう……帰ろっか……」

「……うん……」

「そうですにゃ……もう帰りたいですにゃ……」


 もうこの場で元気にテンションアゲアゲなのは、ガーネットだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る