第18話 いざ、勝負!

 光も届かぬほどの暗い空間。

 岩肌を主張する崖に不自然に空いた穴――洞窟がある。

 その中で一人の少女が退屈そうに、大きな岩に腰掛けていた。

 しかし、そこに突如風が舞い込む。


「……どうして、ここが?」


 少女が目を見開いて、そう問う視線の先に――結衣がいた。

 結衣はそれに決然と答えようとする。――が。


「あー、それ? それはね――」

「企業秘密――という事にしておきましょうかぁ?」

「え、いや、ただ単に気配とか魔法の痕跡を辿っただけじゃん……ってか、企業じゃないよね!?」

「結衣様、私が言うのも何ですが……ツッコむ所はそこですか?」


 ガーネットに邪魔をされ、いつも通りの掛け合いが始まる。

 敵を前にして、なんと緊張感のないことか――だけどこれで、結衣も余裕を見せびらかすことが出来ただろう。


 それを感じ取ったのか。

 結衣と対峙する少女は黄色の瞳を猫のように不気味に光らせ、戦闘態勢を取る。


「やられたらやり返す、ね。ふふっ。相手にとって不足なし――」

「はっはーん、ナメてた口が良く言うよ」


 戦闘態勢を取った少女は不敵に笑うが、結衣は皮肉で応じる。

 そして――結衣たちは二人同時に地を蹴り割るように、跳んだ。


 ――そこから会話は無用だった。

 互いに一歩も引かず。攻撃し、躱し、また攻撃するを繰り返していた。


 だが、しかし――それは突如、終わりを告げた。


「がはっ……!」

「結衣様!」


 終わりの音は、結衣から聞こえてきた。

 魔法を使用することも叶わず、背中から大きな岩石に直撃してしまった。


 だが幸い、それほど大きな怪我はない。

 しかし、その場を動くことはままならず、相手を睨みつけることしか出来ないでいる。


「やっぱり、あなたに魔法少女は似合わないんじゃなくて? 魔法なんてあたしには効かないし」

「ぐっ……」


 眼前に迫る敵にどうする事も出来ず、ただ見ていることしか出来ない歯がゆさに……結衣は心が折れそうになる。

 だが――


「あ、あのっ! 一つだけお聞きしても?」


 ガーネットの突然の問いに、結衣と少女は同じように目を剥く。

 だが、すぐに。


「ええ、いいわ。ただし、一つだけね?」


 少女がそう言うと、結衣の首に自身の武器を当てた。

 今にも殺されそうな結衣はだが、ただ真っ直ぐにガーネットを見つめる。


「あなたのその武器――なんですか?」

「ああ、これ? 当たった攻撃を解析して次の瞬間には抗体ができ、当たった攻撃はもう通じなくなるの」


 少女は恍惚な表情で、自分の自慢話を打ち明けるかのようにして語る。


「だから魔法も効かないし、これは飛び道具――手裏剣やブーメランみたいに投げることが出来るの。盾にも矛にもなる、そんな感じね」


 そう言って自身の武器――ひし形のような何かを手で弄びながら、淡々と答えた。

 それを聞いて、何故か安堵したらしいステッキ。


「――そうですか。では、当たらない魔法なら発動出来る……と?」

「――……は?」

「――増幅ブースト!」


 いつもは結衣が紡ぐ言葉を、今はガーネットが紡ぐ。

 そして素早く結衣を救い出し、疑問が残っているらしき少女を置き去りにする。

 そしてまた、ガーネットは素早く言葉を紡いだ。


「――防壁バリア!」


 結衣を包むように広がる、魔法のドームができあがる。

 あらゆる攻撃を赦さないと語る魔法のドームと共に、結衣――ガーネットのマスターを宙に浮かせた。


「――認識阻害シャットアウト!」


 そう言うと同時――何もかもが消えた。

 否。消えたように見えるそれは、実際はそこにいた。

 だが、武器を持った少女にはそれを視ることは叶わず――


「これで、おしまいです」


 ……と。背後から響いた声にも、ついぞ反応出来なかった。


「全力全開の――えいっ!」


 ガーネットがそう言うと同時、武器を持った少女に衝撃が走った。


「ま、さか――ただ、殴った……と……?」

「いえす……私も痛いですが、構ってられません……」


 ガーネットは自分自身を武器にし、体当たりをしたのだと言う。

 黄色の瞳の少女はフッと小さく笑うと、意識を手放した。

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