第4話 こんなステッキはいらない

「ではではさてさて、先程の本題についてですが――」

「うん、なんかもうどうでもいいや」

「無の境地!?」


 結衣がハイライトを入れていない死んだ目で答えると、ステッキがオーバーリアクションを取った。

 心を無にしても、そのステッキの言動が何故か結衣の目に入ってしまう。


「はっ! いやいや、そうではなく……本題に入りましょう!」


 先ほどとは打って変わって、いやっふー! と言いながら上機嫌にお風呂場を飛び回る姿はなんというか、シュールという言葉が似合う。

 その姿を見ていて、結衣はある事を思い出した。


「あっ! そう言えば私の願いは? 叶えてくれるんじゃ?」

「あー、ですからそれも含めて本題なんですよぉ……はぁ……」


 そう言ってため息を吐くステッキ。

 何故かその一つ一つの動作にイラッとくるが、なんとか耐える。


「えー、ゴホン。では、あなたの疑問から答えて行きましょう!」

「え、あ……うん。じゃあ……なんで私は魔法少女にされたの?」

「あー、それですかぁ。簡単ですよぉ。私はひとりでは力を振るうことが出来ません」


 本気で落ち込んでいるらしく、ステッキの頭の部分を少し落とす。

 ……が、一転。嬉しそうな様子がひしひしと伝わるほど、結衣の顔面に近付いて言った。


「ですが、あなたに出会って! 私は確信しました! あなたが私を守ってくれるに相応しい方だとぉ!」

「え、ど、どういうこと……??」


 なお一層混乱する結衣を楽しんでいるのか、ステッキは焦らすように言う。


「あなたぁ……いえ、結衣様。結衣様は私に“願い”を託された。合ってますね?」

「それ……は、まあ……確かに……」


 ふむ。と満足そうにステッキは頷く。


「“願い”を人に言ってしまうと叶わなくなるように、“願い”を叶えることは、多少なりとも代償が伴う――とも、分かってますよね?」

「あー……まあ、何とか。本でそういうのいっぱい見たし……」

「それは話が早い! 魔法少女になると言うことこそが代償――と言えばお分かりで?」


 ステッキは結衣に、煽るように――子供に諭すように言う。


「心底気に食わないけど……分かった。でもさ、なんでそれが魔法少女なの?」


 それがまだ分からない。

 このステッキの意図も、目的も、何もかも不明。

 そんな結衣の思考を読み取るように、ステッキは答える。


 というか、また別の話を持ってきた。


「結衣様は、私があらゆる願いを叶えてしまう存在――つまり、神のような存在であることはご存知で?」

「……はい?」

「やはりご存知ないですか……これは一から説明しなくては……」


 何やらゴソゴソと、何かを探し始めたステッキ。

 結衣はさっきからひっきりなしに頭が混乱していて、事態を収められそうにない。


「あ、結衣様。言い忘れてました。これだけは言っておきましょう!」


 そう言って、お風呂場の天井まで昇って行ったステッキ。

 そんなステッキは天井ギリギリまでで止まり、こう言い放った。


「魔法少女は――素晴らしいですよぉ!」


 次の瞬間。

 結衣は風呂の窓に向かって、シャンプーの入った容器ごと、ステッキを放り投げていた。

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