凱旋
都までの凱旋はそれは凄いものだった。沿道には多くの人が詰め寄り、通過する公国軍に喝采を浴びせていた。僕には公国王という名称で呼ぶ者が多かった。馴染みがない言葉ではあったが、なんとなく誇らしい気分となった。ちなみにライルとグルドも人気者だ。ニードについても知名度という点では一段落ちるが、それでも名前を呼びかける住民は跡を絶たなかった。
僕の妻達は馬車で都まで移動していたため、顔を住民に晒すようなことはなかったがそれでも馬車の中にいる者が何者かくらいは誰にだって分かる。エリスやミヤへ女性からの声が多かったようような気がした。ん? 女性から? とも思ったがエリスは亜人の地位を向上したということが評価され、ミヤは単純に見目が良いからだそうだ。
三村を出たのが夕方ということもあって、都につく頃には夜に差し掛かっていた。街道には多くの松明が設置されており、夜だと言うのに周りの者の顔をくっきりと分かるほど明るくなっている。公国軍の行列は、ゆっくりと商業区を抜け、二の丸に到着した時点で解散となった。僕とエリス達は一旦、城に向かうことになった。ボートレは当面は賓客扱いということにし、城の中の客室に案内されることになった。その間にレントークの公館を建築し、そこにボートレを居住させる予定だ。
「まさに天を貫くような建物だな。レントークの王城の高さの倍はあるか? いやはや見事な建物だ。それに立派な堀だ。これだけで難攻不落の城となることだろう。しかも、ただの堀と言うだけではないな。小舟を使って、荷の運びに使っているようだな。実に無駄のない王都だ。これしか発展していないのが不思議なくらいだ」
ボートレが誰に言うわけでもなく独り言のようにつぶやいていた。そばにいた自警団の誰かがそれに対して相槌を打ち、都の成り立ちを説明した。
「なんと!! この王都は何もないところに作られたというのか!! しかも出来てから一年も経っていないだと? 信じられないな。それならば街並みが未熟なのも頷ける。しかし、次々と建物が建てられているところを見ると、遅かれ早かれ、この大陸でも有数の都になることは間違いないだろうな」
ボートレは楽しそうに自警団の誰かと話している。相手は可愛い感じの亜人の女性だ。ふむ。僕は自警団の断腸にお願いをして、彼女をボートレの身の回りの世話をするようにお願いすると、すぐに本人に確認され了承を得た。城に入っても、ボートレには自分のことは自分でしてもらうことになる。しかし王族というのは日常的なことには疎いことが多いからな。だれか世話をしてくれる人が一人いるだけでも違うだろう。
僕達は城に入った。ここからはボートレには別の案内が付き、その者が客室に案内する。一応は監視に意味も込められているがボートレは特段気にしている様子はなく、城の内装に目を奪われているようだ。僕はすぐに僕達の居住空間に急いだ。留守番組に会うためだ。
すでに連絡は行っていたのか、マグ姉達が出迎えにやってきてくれた。
「おかえり、ロッシュ」
「今帰った。都は祭りで賑わいを見せているようだな。どうだ? 一緒に行かないか?」
「帰ってきたばかりなのに?」
「もちろんだ!!」
「困ったわね」
マグ姉は困ったような顔をして腕を組んでいた。何を悩んでいるか分かるぞ。僕の護衛についてだろ? それならば忍びの里の者たちにやらせよう。それに妻たちには仮装をさせてみよう。僕が提案をするとマグ姉は意外と食いついてきた。
「仮装!? なんだか面白そうね。要は正体を隠すような格好をするのね。でも準備をするのにせめて一晩はほしいわね。祭りはたしか三日間やるって聞いているけど。明日でいいかしら?」
何⁉ 行けるのか!! それならばいくらでも待とう。そうだ、折角ならサルーンも誘うか。ちょうど、公国に到着した連絡と今後の王国への対策について相談をしたいところだったのだ。そうなると……ガムド辺りを連れて行くか。するとオリバが手を上げてきた。
「私を連れて行ってくれませんか? レントークという土地を見てみたいのです」
ふむ。吟遊詩人として興味が湧いているのだろうな。ミヤはしばらくは城でゆっくりとしたいらしいから、シラーとリードを連れて行くか。ルードは子供ダークエルフの世話をしたいらしい。そういえば、子供ダークエルフはまだ村にいるがこちらに居を移させたほうが良いだろうか?
「それには及ばないと思いますよ。子供たちは村を気に入っているみたいですし、生活は村の人たちのおかげで不自由はないそうですから」
それでも子供たちだけでは心配だな。
「リード。ちょっと聞きたいんだが、エルフの里に子供ダークエルフの世話をしてくれるようなエルフはいないかな? やはり子供だけでは心配だが、エルフのことに精通したものなどいないからな。やはり世話をするのは同族のほうがよかろう?」
「ロッシュ殿!! その言葉を待っていました。実は公国に住み着きたいと考えているエルフが少なくないそうなのです。しかし、エルフは一度里に属してしまうと長の許可が必要となります。私はかなり例外的に許可をしていただきましたが。公国でやることをエルフでなければならない仕事を与えられるのであれば、リリ様の許可も下りやすいかと」
それは有り難いな。リリにも久しぶりに会いたいところだ。出産と同時に追い出されるように里を出てしまってから一度も顔を出せていない。今ならば、始祖エルフの誕生の落ち着きを取り戻し始めているだろうか? 僕がリードに話しかけようとするとミヤが目ざとく反応した。
「リード。そのエルフってまさかハイエルフ狙いじゃないでしょうね?」
どういうことだ?
「それは否定は出来ませんね。ロッシュ殿と私の間に生まれた子供がハイエルフというのはすでにエルフの里では噂になっているでしょうから。でも純粋に興味があるんだとおもいますよ。ただ、否定はしませんからね。もし、その時はロッシュ殿、よろしくおねがいしますね」
何をよろしくするんだ? なんて事を聞くほど僕は子供ではない。一応断った。
「なぜですか!?」
なぜって……関係を持ったらまた嫁が増えるじゃないか。ドラドが加わってからまだ日が浅い。さすがに……。
「いやいやいや。ロッシュ殿は王の中の王になられるお方。奥方は何人居ても良いのです。むしろエルフをもっと加えていただけると……」
そういえばリードって最初っからそうだったな。やたらと嫁を増やすことに賛成していたな。とにかく我慢して断ることにした。そんな関係を持たなくてもこちらに呼ぶことが出来るんだろ? だったらそれでいいじゃないか。
「そうですか。わかりました。無理強いは好きではないので。これからエルフの里に行ってみますか?」
今から? こんな夜に? リードは別に気にする様子はない。
「しかし大丈夫なのか? 始祖エルフの混乱の方は」
「ああ。大丈夫ですよ。落ち着いたという報告は聞いていますから」
ああ、そうですか。それならば行きますか。ルードもエルフの里に行きたいようだ。それはそうか。僕はエリス達にちょっと出掛けてくると行った感じで出発した。久しぶりのエルフの里だ。リリとの間の子供には一度しか見ていないからな。再び会えるのは楽しみだ。
僕達は移動ドアから一度村に向かった。フェンリルにも同行してもらった。ハヤブサの他に二頭だ。帰りは移動ドアを使うことが出来ないので、フェンリルで帰るつもりなのだ。エルフの里に向かう途中で子供ダークエルフの家に立ち寄った。もちろん大量のお菓子を土産に。家では小さなダークエルフの歓迎を受けた。ルードも久しぶりに会えたことをすごく喜んでいた。
これからエルフの里に向かうことを告げると、子供ダークエルフがお見送りをしてくれた。すごく可愛かった。エルフの里に到着すると普段と何も変わりがない景色が広がっていた。すでに出迎えのエルフが待っていて、僕達をリリの館に案内してくれた。その間もルードは物珍しそうに周りを見ていた。それに対して里のエルフはルードをよそ者のような扱いを……しなかった。
僕が考えるよりもエルフとダークエルフの間に違いはないのかも知れないな。そんな事を考えている間に館に到着した。相変わらずだったが、館の隣で同じくらいの館が並んでいた。これは前に来た時は見なかったってことは最近出来たものか?
館から別のエルフがやってきた。いつもの冷たい視線を向けてくるエルフだ。彼女も相変わらずだ。リリのいる部屋まで案内をしてくれると彼女は去っていった。部屋に入るとリリが長い足を見せつけるようにソファーに座っている。
「我が君。ようやく会えて、妾はうれしいぞ。リードも息災で何よりじゃ。それとルルの一族もよく来てくれた。同胞に会えたことを嬉しく思うぞ」
ルル? 誰だ? ルードはワナワナとしながら、リリの前に跪いた。
「リリ様。会えて嬉しいです。長ルルがいなくなってから我らは彷徨い続けました。ようやくロッシュ殿という道標を得ることが出来、なんとか一族をまとめることが出来ました。ルル様の再来を我らは願います」
「そうか。ルルはいなくなったか。また一人ハイエルフがいなくなるというのは寂しいものだな。ただ、その一族の末裔がこうやって妾の前に現れたのは宿命を感じるの。やはり我が君には不思議な縁を感じるものじゃな。そのうち我が君の種からハイエルフが産まれるじゃろ。しばし待つが良い」
リリは手を叩き、すぐにもてなしを受けることになった。久しぶりのエルフの魔界料理だ。この料理が出たと知ったらミヤが悔しがることだろうな。
「ところで我が君はどうしてここに? 妾に会いに来ただけではあるまい?」
僕は子供ダークエルフの世話をしてくれるエルフを紹介してくれるように頼むと、リリはさすがに難しい顔をした。
「それは本来の里の掟に反するものなのじゃ。リードは例外的に認めたんじゃが……ふむ。ならばリーシュを連れて行くが良い。ただし、我が君の種を宿すことじゃ。これが最低条件じゃ」
やはりそこに行き着くのか。僕はなんとかそれを回避しようとしたがダメだった。リリの言う理由は単純明快だった。里から出ていくことを認めれば、エルフの数は減ってしまうからだそうだ。そのため、数を増やすことを条件ならば例外的に認められるらしい。それでも一年以内に妊娠しなけらばならないという条件が加えられた。僕がなあなあにしそうな雰囲気を察したのだろう。
やるな……。
僕がふとリードの顔を見ると、驚いて動きが止まっていた。そういえばリーシュというのは?
「私の妹分みたいな存在で、ずっと一緒に暮らしていたんです。あの子とまた暮らせるんだ……。ロッシュ殿、すみませんがこの場を離れさせてもらいます。リーシュに伝えに行きたいんです。リリ様、宜しいでしょうか?」
リリはすぐに許可を与え、居場所まで教えてくれた。僕も頷いた。リードがこんなに喜んでいるのも珍しいものだ。リードはすぐに部屋から出て行くと、廊下のほうが急に騒がしくなった。リードが何かトラブルでもしたのか? と思ったが、急にリリが立ち上がりドアの方に向かい、膝を着いた。なんだ? 何が起こったのだ?
ドアが豪快に開け放たれた。そこには見たこともない大男が立っていた。大男と行っても男なら羨むほどの整った見目をしており、耳が尖っていた。長めの金髪がサラサラと流れ、パッと見は女性と見間違えてもおかしくないが上半身が裸だったため、間違えることはなかった。しかし、こんな男は見たことがないぞ。ルードはあられもなく大股を広げて座り込んでしまっている。僕がルードを窘めると、その青年に対して土下座の仕草をとった。
……僕は信じたくないが、一つの可能性が頭に浮かんだ。ただ、それを言葉にすることは難しく、目の前の男エルフの顔をじっとみるだけだった。すると男エルフの方からその疑問に答えてくれた。
「お初にお目にかかります。父上!!」
僕と息子の初の体面だった。
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