第一王子来訪と騒動③

 ルドが屋敷に泊まっていった。明日は、やるべきことはたくさんある。まずは、兵1000人の各人の意志の確認だ。僕は、組織として村に組み込むつもりはない。この村にいたいと思う者のみの移住を許可するつもりだ。人類至上主義を貫き、どうしても亜人との共存が無理ならば、村にいる資格はない。その場合は、いくらかの食料を渡し、村を出ていってもらうしかない。


 僕も明日のことを考え、早く休むことにした。早朝には、斥候に出した者から報告がやってくるだろう。ルドはともかく、兵1000人は信頼できるとはまだ言いがたい。特に人類至上主義者が危険になってくるだろう。


 僕は、エリスに揺さぶられて起こされた。いつものように、目の保養をしようと思っていたが、どうやら様子が違う。エリスが、いつもの優しい雰囲気を出していなかった。僕は、すぐに跳ね起き、エリスの顔を見た。エリスの顔は緊張感が走っていた。


 「ロッシュ様。自警団の報告が参りました。すぐに居間においでください」


 僕は、すぐに着替え、居間に向かうことにした。居間には、疲労しきった団員が床に座り込んでいた。僕の姿を見て、立ち上がろうとしたが、僕が止め、座ったまま報告を聞くことにした。団員は、その場で居住まいを正し、驚くべく報告をした。


 「ロッシュ様。大変でございます。ラエルの街に駐留している兵の一部が村に進軍を開始しました。進軍している兵は、食料を運搬した者を捕縛し、その者を案内役にこちらに向かっています。おそらく、一時間もしない内に到着するものと思われます。彼らの目的は不明です。他の者が首謀者と思われる者に付いているので、続報があるものと思われます。私からは以上です」


 僕は、彼を労り、すぐに休ませた。最悪なことに、村人が人質に取られてしまった。護衛を付けずに行かせたのは失敗だった。少なくとも、僕の油断だ。


 すぐに、ライルを呼び出そうとしたが、ライルは街の方に行っていた。斥候として送っていたんだった。そうすると、進軍している者たちの近くにいるはずだ。そうなると、こちらが出来るのは、戦闘の出来る者の招集と住民の避難だ。避難先は集落にしよう。あそこは、周りが森に囲まれているから、防御に適しているはずだ。


 僕は、ミヤを呼び出し、眷属を招集してもらうことにした。エリスにはゴードンに対し事の顛末を話してもらい、住民の避難を優先させるように伝えるように頼んだ。この状況でもゴードンならうまくやってくれるだろう。武器は、屋敷に十分にある。


 進軍している者たちは、間もなく到着するだろう。どこで迎撃をすればいいだろうか。ここにライルがいないのは致命的だ。そうか、ルドだ。ルドの存在を忘れていた。


 僕は、すぐにルドが宿泊している部屋のドアを激しく叩いた。すぐにドアが開かれた。ルドは、熟睡していたのか寝ぼけ眼だった。


 「ルドの兵が、村に進軍を開始したぞ。それに、村人も人質に取られた。何か、心当たりはないか?」


 ルドは僕の言葉の意味を理解していないようだったが、みるみる表情が変わってきた。ようやく状況を飲み込めてきたようだ。


 「そんな馬鹿な。それは本当のことなのか!?


 僕は、頷いた。というより、こんな問答をしている時間はないのだ。僕は、だんだんと苛立ち始めていた。


 「ルド。本当のことだ。知っていることがあれば、話して欲しい。敵の情報が全くわからないのだ」


 「すまない。動揺してしまって……おそらくだが、参謀が首謀者だろう。参謀は、この村の存在を知ったときから、私に進軍を進言していた。それは、街に着いてからも変わらなかったので、周りに影響が及ぶと思って拘束したのだ。参謀は100名の直属の部下を持っている。進軍しているとしたら、そいつらだろう。その上、やつらにどれくらいの兵が同調しているかは分からない。やつらは手練だぞ。戦場では、参謀直下の兵は強かった。油断していると痛い目にあうぞ」


 「最低でも100名か。それだけ聞けただけでも良かった。一度は油断をし、村人を人質に取られてしまった。もう油断はしない。ルドはどうする? ここにいるか?」


 ルドは考えたが、迎撃に参加するようだ。ルドもかなり怒りに震えている表情をしていた。僕は、戦場をどこにするべきかルドに相談した。ルドは、戦場を渡り歩いた男だ。僕よりも的確に考えることが出来るだろう。現状の戦力について説明をした。ミヤとその眷属30名、自警団30名、弓矢が長けた狩人が10名。そして、僕とルドだ。


 ルドは、僕の説明を聞いて、驚いていた。魔族が戦力として加えられていることに。考えてみれば、人間界に魔族はほとんど目撃されていない存在だ。そのような者がいると聞かされれば、驚きもするだろう。僕自信、ミヤやその眷属の戦力が如何程かわからないが、以前、リリとの戦いを見ている限りでは、ライルより戦力は上ではないかと思っている。ライル一人でも、人間に勝てる者は少ないだろう。そうすると、人数ではこちらが不利だが、戦力ではこちらが上であるはずだ。


 ただ、戦力が集まっていないことが不安材料だ。ライルとは連絡はつかないし、眷属の到着もしばらくかかるだろう。その上で、ルドが考えた場所は、村外れの街道だった。街から村までは一本道で、殆どが森に囲まれている。平原もあるが、そこは魔の森で魔獣が練り歩いているため、そこを通ることはないだろう。そうすると、街道を利用してくることは間違いない。


 村外れであれば、村への被害がないだけでなく、ライルの部隊とミヤの眷属との最短で合流する場所でもある。問題は、合流のタイミングがずれると、僕とルドと狩人で序盤に当たらなければならない状況がある可能性があることだ。しかし、進軍を村の中心地まで許すと被害は甚大になる。それらを総合するとルドの案が妥当だろう。


 僕達はすぐに戦場予定地に移動を開始した。ミヤは魔力を探知できるから、僕の移動を把握しているだろう。僕は、緊張していた。これから初めて戦争になるかもしれないからだ。そこでは命のやり取りがある。僕は、果たして人の命を奪えるのだろうか。ルドの方を見ると、落ち着いているように見えた。さすがは戦場を経験しているものだと感心した。


 「ルドは、緊張しないのか?」


 「そうだな。戦争など一度二度の経験ではないからな。まさか、仲間を討たねばならない時が来ると信じられないな。私は、この予兆みたいのを感じていたが、仲間を信じていたから、考えないようにしていたのだ。私はなんて甘いのだろうか。どこかで、部下は裏切らないと本気で思っていた。なんて様なんだ」


 「そうか。ルドは良いやつなんだな。僕も同じ状況なら、仲間を信じてしまうだろう。それが良いのかどうかは分からないが、僕はそれが自分なのだと諦めしかないだろうな」


 「諦めるか……そうだな。そう思えば、気が楽になるな。今回の件は、私に片をつけさせてくれないだろうか。参謀は私の手で討たねばならない」


 ルドは、思い詰めた様子で話していた。しかし、それがルドのけじめの付け方なのだろう。今回の戦いは余裕のあるものではないが、ルドの意志を尊重してやりたいと思った。

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