エルフの呪い騒動②

 一旦、里の入り口まで戻ってから、リリの館に向かうようだ。相変わらず、エルフの僕を見る顔が少し怖い……。リリの館に到着すると、口数の少ないエルフが案内を引き継いだ。こちらへ、と小さな声で話すと、こちらの返事を待たずに先に進んでしまった。僕らはしかたなく付いていくことにした。


 リリがいるだろう部屋に入ると、リリが長イスに座って、僕らを待っていたようだ。相変わらず、すらりとした長い足が魅力的だな。


 「久方ぶりじゃな。我が君。ちっとも会いに来ないから寂しかったぞ。そなたを抱きたいところだじゃが、その前に言わねばならないだろう。里の者が世話になった。話を聞いたが、さすがは我が君じゃったな。妾でも手を上げた病を治してしまうとは。本当に助かったぞ」


 リリは、長椅子から立ち上がり、優雅に頭を下げ、感謝を伝えた。いつも、尊大な態度しかとっていなからなんとなく違和感があるが……


 「気にしなくていい。助けを求めてきてくれて、僕は嬉しかったぞ。困ったらお互い様だ。いつでも、僕を頼るといい。それよりも、治療をする時に、気になることがあった」


 僕はリリに鶏の件を話した。リリは、先程の態度をガラリと変え、いつもの尊大な態度に戻っていた。僕は、卵と鶏を何とか譲ってもらえないかと頼むことにした。


 「鶏とは、あの小屋の周りにいる鳥のことか? あれはのぉ、魔の森に入り込んできたのを気まぐれで保護したに過ぎない。ずっとあの場所に放し飼いをしているだけなのじゃ。妾達は、卵も鶏も食べはせぬから、今回、世話になった礼に、全部持っていくが良いぞ」


 本当か⁉ 僕は喜んではしゃいでしまった。リリにも笑われてしまって、ちょっと恥ずかしい思いをした。リリは、お茶の準備をしてくれた。そういえば、エリスがお菓子を持ってきているはず。お茶請けとして、お菓子を出すことにした。リリは、クッキーを初めて見るようで、匂いを嗅ぐと、目を見開き、こっちを見つめてきた。


 「我が君。妾の勘違いではないとしたら、これは、甘いものではないのか? 妾達、エルフは甘いものには目がないのじゃ。なにゆえ、これがあることを今まで隠しておったのじゃ!! 」


 ちょっと怒ってる? 別に隠していたわけじゃないんだけど。僕は、甜菜のことを話し、お菓子も最近出来たことを伝えると、リリは落ち着きを取り戻した。エルフが菓子好きとは……いい情報を得たな。リリに、卵を使ったお菓子のことを話すと、尋常じゃないほど食いついてきた。すぐに持ってくるように約束まで交されてしまった。まだ、作ってもいないのに、言うんじゃなかった。


 リリは、ようやく落ち着きを取り戻し、今回の話に戻った。

 「ちょっと、興奮してしまったの。我が君が悪いんじゃぞ。ちょっと、聞きたいんじゃが。今回の病は何が原因は何だったのだ? 妾はあらゆることを考えて、治療をしたつもりじゃが、まったく功を奏しなかったのじゃが」


 僕は、病ではなく呪いだと伝えると、リリは立ち上がり、凄まじい形相になった。


 「呪いじゃと⁉ 信じられぬ。いや、呪いと言われれば、確かに頷けるところもある。しかし……本当に呪いじゃったとは。して、我が君は呪いをどうやって解いたのじゃ? 」


 僕は、言っていいものかどうか迷ったが、隠すこともないと思い、自分の回復魔法で呪いの解除をすることが出来ることを伝えると、また、リリのビックリした表情を見ることになった。リリは、僕のことを聖者と言っていたが、どういう意味だか分からなかった。その後に、マグ姉の回復薬を処方したこと伝えると、薬草に興味を持ったようだ。


 「そなたは、初めて見る顔じゃな。まさか、そなたも我が君の婚約者というわけではあるまい? まぁ、どちらでも良いがの。それよりも、そなたの持っている薬草を見せてもらえるか? 」


 マグ姉は、リリのやりづらい会話にやや顔を引きつらせながら、僕の方を向き、許可を求めてきた。僕は、頷いて返事をした。マグ姉は、自分の持っている薬草が入っている袋をテーブルの上に出し始めた。その数は、十を越えるものだった。リリはその一つ一つを丁寧に開けて、中身を確認しだした。いくつかの袋を開けた後に、動きをピタリと止めた。


 「こ、これは……素晴らしいものじゃな。妾もこのようなものは見たことがないのじゃ。済まぬが、これを譲ってもらえぬか? 」


 マグ姉は、リリの反応を見て、ニヤリと笑った。何か合い通ずるものがあったのだろうか? 僕には、何にリリが興味を持ってのか皆目見当もつかなかったが。


 「もちろんですわ。本当は持ってくるつもりはなかったけど、何故か入っていたみたい。使いみちは……分かっていると思うけど、その薬草の効果はすごいから、程々にすることをおすすめするわ。使いすぎると、相手が死んでしまうかもしれないですし」


 リリもマグ姉の言おうとしていることが理解できるのか、もちろんじゃ、と頷いていた。マグ姉の口ぶりからすると、相当強力な薬のようだ。用法を間違えると死んでしまう薬とは……これは、素人では取り扱えない薬のようだな。


 その後も、マグ姉とリリの間で薬草話に長引き、夕飯までご馳走してもらうまで、長居してしまった。それまではミヤはつまらなさそうにしていたが、久々の魔界の料理とあって、うれしそうに料理を食べていた。そこで出された酒も魔界由来のものらしい。魔酒とは色が異なっており、ワインのような色と香りがしていた。ワインもいつかは造りたいものだけど。


 すると、リリが真面目な顔をして、僕に話しかけてきた。


 「我が君。先程、治療をしてもらった者から聞いた話から、呪いを受けた場所が判明したのじゃ。この里からは少し離れた場所らしいんじゃが、変な雰囲気が漂っていて、その場から逃げようとしたのが最後の記憶だったみたいじゃ。妾は、この場所に行き、原因を潰そうと思っておるのじゃ。また、里の者が呪いにかかっては困るからの。そこでじゃ、我が君にも来てほしいのじゃ。そなたの回復魔法があれば、妾も心強い。もちろん、礼もする。どうじゃ? 」


 僕に異存はない。リリに恩を売っておくのは決して悪い話ではない。ただ、エリスとマグ姉は連れて行くわけにはいかない。ミヤの戦闘は見たことはないが、おそらく僕より強いだろう。そうなると、一旦村に帰ってから、出向くのがいいだろう。僕は、エリスとマグ姉に相談すると、僕の身を案じて、反対してきたが、この話を受ける利点を言って説得すると渋々だが応じてくれた。もっとも、ミヤが僕を絶対に守るという言葉が決定打となった。なんだかんだで、エリスとマグ姉はミヤのことを信頼しているようだ。


 「リリに協力しよう。エルフの里が危険に晒されているのは、僕としても望むものではない。ただ、一旦村に戻らせてもらう。鶏の件もあるしな。明朝にまた、戻ってくる。それでいいか? 」


 リリに依存はなかったようだ。鶏については、リリの方で手配して村に運んでくれることになった。非常にありがたい申し出だ。村で魔の森に入れるの者は限られてくるからな。僕は、エルフの里を後にし、村に戻ることにした。鶏は、後日届けてもらうようにした。準備とか色々必要だからね。


 村に戻る時に、マグ姉にリリに渡した薬のことを聞いた。マグ姉は、笑いながら、あれは精力剤よ、と答えた。


 マグ姉……なんてものを持ち歩いてるんだよ……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る