ハイエルフ

 なんで、こんなところに、女性が? それも裸なんだ? ああ、水浴びだったか。


 その女性が、こちらに気付いて、近付いてきた。目の前まで来て、わかったことがある。やや緑がかった銀色の長い髪、緑色の瞳、美しく。身長は170センチメートル位あるか、僕から見ると見上げるほどだ。胸はやや小ぶりながらも、スラリとして、美しい裸体だ。大きな特徴は、耳が長く尖っていることだ。人間ではなさそうだな。


 僕が、体をマジマジと見たあとに、女性の目を見ると、目が合った。こっちをずっと見ていたようだ。その女性はニヤリと笑った。


 「何ゆえ、ここに人間の男がおるのだ。まぁ、どうでもよいか。妾にあったことを、自分の不幸を……いや、幸せに感謝するのだな」


 そういうと、僕の腕を掴みかかりに来た。すると、護衛をしていた眷属達が、一斉に出てきて、裸体の女性に攻撃を仕掛けた。裸体の女性は、身軽に攻撃をかわし続ける。眷属たちも、何度も仕掛けるが、裸体の女性には、攻撃が当たらなかった。攻撃をかわしながら、裸体の女性は、僕をずっと狙い続けた。


 お互いに一進一退を繰り広げている時に、僕は、その場を少しずつ移動をした。この状況に恐れているかのように装いながら……森の中に入ったところで、ライルの時みたいに、周囲に落とし穴を設置した。あとは、こっちに誘導して……裸体の女性が、眷属たちと戦いながらも、少しずつ近付いてきた。そして……落とし穴に落ちていった。眷属たちと一緒に。広く作ってしまったことがアダとなってしまった。


 僕は穴を覗き込むと、裸体の女性は、穴に落ちた衝撃で気絶しているように見えた。その隙に、眷属たちを救い出した。眷属達は、裸体の女性を知っていたようだ。


 「こいつは、ハイエルフのリリ様です。魔界でも有名でしたが、急に姿をくらましたのです。ハイエルフは、エルフの始祖と言われており、見た目は若々しいですが、年齢は1000歳を越えているんですよ」


 衝撃的だったけど、ミヤや眷属がそうだけど、年齢と見合わないことを知っていたから、あまり驚かなかったが、1000歳を越えて、この見た目とは……。ハイエルフという種族は、ロッシュの記憶にもなかったから、珍しい種族なんだろう。エルフっていうのは、ロッシュでも知っていたようだ。高い戦闘力、とくに、森林でのゲリラ戦が得意で、森の中では、敵なしと言われた種族だ。さらに、家具作り得意……家具作り? 


 「エルフって種族のことなんだけど……家具作りが得意なの? 」


 「やはり、ロッシュ様はご存知でしたか。魔界でも、家具作りに関しては、エルフの右に出る種族はおらず、常に新しい技術を導入しており、他の追随を許していませんでした。しかし、いつの頃か、エルフたちは姿を消して、エルフの作った家具が魔界では、青天井で取引されていると聞いたことがあります。そのエルフに技術を教えたのが、ハイエルフらしいのです」


 へぇ……家具作りねぇ。興味深いな。


 眷属達に、ハイエルフのリリを、捕縛するように命ずる。もちろん、目のやり場に困るから、服を着させた上でね。


 「ん…ん…はっ!! 」


 ハイエルフのリリが気付いたようだ。服を着ているおかげで、ちゃんと彼女を見ることが出来る。


 「ハイエルフのリリ。はじめまして、僕はロッシュだ」


 「ほお、妾の名を知っておるとは、殊勝じゃな。妾は、エルフの始祖、ハイエルフじゃ。崇め奉ると良いぞ。まずは、この縄を外すが良い」


 ん〜縛られて、凄まれても……全然、ありがたみがないや。


 「それは出来ませんよ。貴方は、僕を襲ったんですから。僕をどうするつもりだったんですか? それが分かるまで、その縄を外すわけにはいきませんよ」


 「何を言う。妾をハイエルフと知っているならば、その理由も分かるであろう」


 ん? 全然わからないぞ。眷属に聞いてみると、どうやら、エルフの里には、男子がおらず、子を生むために、男子をさらってくるのが習慣らしい。僕も種馬になってしまうところだったんだな。リリが言っていた、幸せってそういうことか。たしかに、こんな美人の相手になったら幸せだろうな。


 僕は、ちょっとニヤニヤしていると、眷属から、冷たい目線を向けられてしまった。


 「おほん!! 理由は分かった。条件を飲むなら、縄をはずしてやってもいい」

 「なんじゃ。言うてみい」


 「一つは、縄を解いても、僕を襲わないことだ。僕はまだ子供の体だ。そちらの要求には応えられないだろう」


 リリは、話を続けろと促してくる。


 「二つは、エルフたちが作ると言われる家具を見せて欲しい。僕の村に、是非家具を仕入れたいのだ」


 一瞬、リリが、キョトンとした顔をした。まさか、家具の話になるとは思っていなかったようだ。


 「ほお。妾たちの家具に興味があると? それは感心じゃ。ふむ。よかろう。そなたの望みを叶えて進ぜよう。一応言っておくが、男をさらうのを止める気はないからな。さあ、縄を解け」


 「あと一つ、これは質問なのだが、家具の支払いが男ってことはないよな? 」


 「何を言っておる? 男以上の支払いがあるか? 」


 「他に方法はないのか? 」


 「そなたには分からぬのだ。今や、エルフの里は存亡の危機に立たされておるのだ。前までは冒険者などというものが頻繁に入ってきていたから良かっただ、今は、誰一人入ってこない。これでは、子が残せぬ。ゆえに、支払いは、男のみじゃ」


 存亡の危機に立たされているの、どこも一緒なのか。エルフとは、なんとか友好関係を築きたいものだ。何か、助けられる術があればよいが。

 

 「そうか。一応聞いておくが、里に送った男は戻してもらえるのか? 」

 「それは要相談じゃな。我らが欲しいのは男そのものと言うより種じゃからな」


 なるほどな。僕の常識では、通常考えられないことが当たり前のように行われていることがある。この世界では、亜人が存在し、迫害されている。人間の社会では、それが正当化されているのだ。僕からすれば、奇異に映ることでも、この世界では常識なのだ。このエルフに男を送るという選択は、僕の常識ではありえないことだが、皆にはどのように感じるのだろうか。


 「紹介が遅くなったが、僕はこの近くの村の長をやっている。村のものと相談してからでなければ決められぬが、もしかしたら、男を貸すことは出来るかもしれない。もちろん、未婚の男子で、自らの意志で決められるものに限定されるが、エルフの里に派遣することも出来るかもしれん。これは可能性の話だが、そちらにとって悪い話ではあるまい? まずは、それで、僕と友好関係を結ばないか? 」


 「ほお。それは、妾からすれば願ったり叶ったりじゃ。里にも希望じゃ。妾達は、そなたらに家具を提供し、そなたらは、妾達に種をくれるという可能性があるということじゃな」


 その通りだ。僕は頷いた。


 「妾に異論はない」

 話がまとまったので、リリの縄を外した。リリは、縄が食い込んでいた場所を擦って、僕の方を向いた。


 「今度、妾たちの里に来るがよい。森の入り口で、この鈴を鳴らせば、迎えをよこそう」


 僕は、リリから鈴を受け取ると、リリは僕の顔に顔に近付いた。


 「私は、そなたに興味が湧いたわ。そなたの種をいつか、もらいたいものじゃな」


 リリから、なにやら気迫のようなものを感じた。そして、いい香りがした。


 僕達は、拠点に戻ると、ミヤ達が戻っていた。どうやらべガーブの実を大量に採取することが出来たみたいだ。魔酒が飲めるかもと、ミヤはホクホクした顔をしていたが、リリの話をすると、急に、顔をしかめた。


 「まさか、ロッシュ、あの変態女に言い寄られたんじゃないの? 何か、変なことは言われなかった? 」


 リリは、有名人のようだ。僕は、リリの囁きについては、ミヤには言わないでおいた。だって、僕もリリに興味があるんだもん。

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