堤防補強

 僕は、疫病患者の治療を終わらせ、次の課題である川沿いに農地を開墾するために、堤防を村の方まで延長することを決めた。計画では、堤防を設置した後、外側に水路を設置し、水田地帯を開墾。更に外側に、畑を広げていく予定だ。畑は水田より高台にしていく。こうすることで、長雨による水没から畑を守ることができる。


 できれば、畑から水田に、土が流亡しないように工夫をしておきたいところだが、これはまだまだ先の話になるだろう。


 大まかな区画整理の計画が出来上がったら、あとは作業をするのみだ。僕は、前に築いた堤防から村に向かって、3キロメートルほどの堤防を設置することを決め、早速作業に移った。今の僕の魔力では、一日400メートルの堤防を設置することができる。同時に、400メートル×50メートルの水田を作ることができる。2ヘクタールの水田だ。


 これを8日かけて、堤防を完成させた。これで、当面は、氾濫に悩まずに済むだろう。ただ、堤防は土を積み上げただけのものだから、長雨や川の流れによっては、みるみる削られ、決壊ということは当然考えられる。特に、最初に作った堤防付近は、流れがきつい場所だ。そこの補強はしておくべきだろう。コンクリートってあるのかな? ん〜この時代には難しいか……となると、漆喰がよさそうだな。


 漆喰でこの堤防を覆ってしまおう。まずは、石灰岩を探すことから始めるか。こういうときは、ゴードンに聞くに限る。今日のゴードンは休みを取っているはずだ。ということは、家にいるはずだな。ゴードンの家に行ってみると、なにやら客人が来ているようだった。とりあえず、訪ねてみよう。


 「ロ、ロッシュ村長、どうなさいましたか⁉ 」


 えらい慌てぶりではないか……ん? 僕が来てはまずかった雰囲気か? 聞くだけ聞いて、お暇させてもらおう。


 「なに、ちょっと、ゴードンに聞きたいことがあってな。石灰岩を知らんか? 白い岩のことなんだが……」

 「石灰岩ですか……もしかして、石灰いしばいのことですかな? それでしたら、北の山の麓に大量にありますよ。なんでしたら、採ってきましょうか? いかほど、入用で? 」


 「おお! あるか。それは助かる。堤防の補強に使おうと思ってな……とりあえず、20トン位ほしいかな。あと、大量のわらが、欲しいんだが」


 さすが、その数字を聞いてゴードンがびっくりしていた。


 「流石にその量となると……採掘だけでも、一月はいただかないと……」


 「そうか。もう少し早くなるといいが。では、運搬だけだったら、どうだ? 」


 「運搬だけでしたら、何とかなりましょう。畑作業が一段落付いた者を集めて行えば、いくらも時間はかかりますまい。幸い、堤防と石灰岩の採掘場所は距離が近いですから……」


 「そうか。では、石灰岩の場所を教えてくれ。エリス、場所を聞いておいてくれ」

 

 ゴードンに聞いた場所に、行ってみると、なるほど……石灰岩がいい具合に露出しているな。土魔法で、精製はできるのだろう?


 やってみよう。石灰岩から生石灰を取り出すようなイメージで……できた。そこには、大量の白い塊があった。

 試しに、水を掛けてみると、ものすごい勢いで反応し、発熱をしていた。これは間違いないな。


 昨日今日で運搬が来るとは限らないからな、その間に雨でも降られたら大惨事だ。どこか、雨が凌げるような倉庫を作った上で、そこに生石灰を保管しておこう。

 そうだな……この山に祠を作ってみるか。幸い、この山はほとんどが石灰岩で出来ているようだから、生石灰を精製しつつ、穴を掘ってみよう。余計なものは、外に出していけば、埋まることもないだろうし。


 幅と奥行が100メートル、高さ10メートルの穴蔵が完成した。そこには、うず高く生石灰が盛られていた。一万トンくらいは作れたかな? これだけの量があれば、数年は石灰には困らないだろう。


 精製した一部の量だけでも、全堤防を漆喰で覆うことができそうだな。真っ白な堤防だ……白鷺堤とでも呼ばせてみようか……


 数日後に、運搬作業が始まった。50人からなる運搬部隊をゴードンが用意してくれたおかげで、またたく間に、生石灰は、堤防近くに積み上げられていた。全堤防分の生石灰を運び込むのに、10日しかかからなかったのは、素晴らしかった。ゴードンの指揮能力の高さは評価に値する。


 わらは、稲ではなく麦だが、大量に手に入った。建材として使う予定だったものだが、今は、旧都の住居を使う予定だから、麦わらを使わなくなったのだ。いいタイミングだった。


 麦わらを細かく裁断してもらい、漆喰の材料は揃った。


 さて、生石灰を消石灰にしないとな。そのためには、水が必要となるが。近くに川はあるが、こっちに運び込むのだけでも大変な作業だ。魔法でなんとかならないか……


 僕は、久しぶりにステータスを開いてみた。すると、スキルが二つ取得できるまで、経験値が溜まっていたようだ。助かるな。僕は、あまり考えずに水魔法を取得した。いつものように、水魔法の知識が頭に入り込んできた。


 なるほど。空気中の水蒸気を液体に変換し、集合させると、まとまった水になるのか。でも、近くに川があるんだから、そこから持ってくるだけでいいだろう……


 水魔法で、川から水を生石灰に加え、土魔法で混ざるようにイメージをして、出来上がったものに麦わらを混ぜて……完成だ!! 漆喰が。


 すぐに、漆喰を堤防に塗っていく……といっても、土魔法で、乗せていくだけの作業だけど、この作業自体はすぐに終わった。


 この作業は、とにかく生石灰の運搬に時間がかかったが、すべてを人力でやるより遥かに早く済んだ。僕は、漆喰の作成、塗布を午後に終わらせ、午前は、畑の区画整理を同時並行で進めることが出来た。 


 全堤防を漆喰で塗り終わった頃には、長雨の前触れのように、雨の日が徐々にだが、増えてきた。


 長雨が本格的になる前に、移住を済ませてしまおう。ゴードンに頼み、順次、住民たちの移動を始めてもらった。レイヤが休まず、作業を続けたおかげで、100棟の住居を用意することが出来た。これでなんとか、500人は住めるようになったかな。一棟の建物に五人住んでもらう計算のため、二世帯住んでもらったり、単身世帯は、シェアしてもらうようにお願いした。


 不満が出ると思っていたが、皆、素直に従ってくれたことにびっくりした。ゴードンに聞くと、そんなのは当たり前では? と不思議そうな顔をした。


 「ロッシュ様でもおかしなことを考えるのですね。明るい未来が広がっているのですから、文句を言う人なんているわけないじゃないですか」


 エリスにも言われてしまった。そういうもんだろうか? 僕は、皆が感じている悲惨さをあまり実感していないんだろうな、と思った。


 これから、長雨の時期に入る。自宅にいることが多くなるので、書庫で文献を当たる作業と来年の作付け計画をやろうと思う。少ない人数で、多収穫を実現するためには、品種改良も視野に入れていかないといけない。


 長雨でも、やることは多そうだ。

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