第1章 勇者は幼馴染の高校生

第1話 勇者、初めて異世界を見る!!01

 頬から伝わる石畳いしだたみのひんやりとした感触で正義は目を覚ました。そこは中世の教会を思わせる石造りの建物の中で、正義は中央に置かれた祭壇さいだんの前に倒れていた。


「うぅ……」


 まだ頭痛は治まらず、意識も少し朦朧もうろうとしている。うめきながら顔を上げると鮮やかなステンドグラスの窓が見えた。


「ここは……どこだ??」


 正義が上体を起こすと突然、ずんぐりとした体格の男が視界に飛びこんできた。


「ようこそおいで下さいました。勇者さま!!!!」

「ウぇあッ!?」


 正義は頓狂とんきょうな声を上げてのけり、思いっきり後退あとずさった。男は西欧人のような中年男性で、満面の笑みでにじり寄ってくる。


「驚かせてしまって誠に申し訳ございません。勇者さま、わたくしめはビンス。レッドバロンの町長でございます」


 ビンスはうやうやしい態度で正義を『勇者』と呼んだ。


「あなた様で1、2、3、4……7人目の勇者さまでございます。ほら、他の勇者さまもいらっしゃいますよ」


 ビンスは指を折って数えながら周囲にいる沙希たちを見回す。状況を把握できずに混乱していた正義は、沙希やみんなの姿を見つけて安堵あんどのため息をついた。


「どうなって……いるんだ……?」


 正義は立ち上がり、絞り出すような声で誰ともなく尋ねた。


「……そこのガンバルフって言うお爺さんが、わたしたちを連れて来たんだって」


 やけに冷静な口調で沙希が答える。正義が沙希の視線を追いかけると、祭壇の近くでトンガリ帽子を被った大柄の老人が腰に手を当ててうずくまっていた。


 老人は立派な白い顎鬚あごひげを蓄えた彫りの深い顔をしており、中世ヨーロッパの修道士が羽織るような灰色のローブをまとっている。まるで、映画に出てくる魔法使いそのものだった。


 しかし……。


「ヌウゥゥゥ……」


 今は威厳にちあふれた顔が苦痛に歪んでいる。


「ガンバルフさん。やっぱり、少し横になった方がいいですよ……」


 京子がガンバルフを見かねて声をかける。京子はガンバルフに手を貸して長椅子に横たわらせた。


「す、すまんのぅ……た、助かるわい……」


 横になるガンバルフを見て茜が呆れた顔つきになる。


「ウチらを召喚する魔法を唱えてる最中にギックリ腰になったんだとよ」

「しょ、召喚!?」


 目を丸くする正義に佳織が補足する。


「あのね、魔法とかで他の世界から人を呼び出すことだよ」

「そ、それは知ってるけど……」


 正義が戸惑っていると横から敬が笑顔で進み出た。


「召喚……素晴らしいじゃないか!! そして異世界に召喚されるのは大抵、勇者や救世主になると設定で決まっている!!」

「た、敬君……そ、それはアニメとかゲームの中の話で……」


 佳織は喜ぶ敬を不安気な顔で見つめている。


──アニメ、ゲーム……。


 正義は小学校の頃夢中になって見ていたアニメを思い出した。そのアニメは未来から来た猫型ロボットとダメダメな主人公が一緒に宇宙や魔界といった異世界を冒険するという内容だった。子供心にそんな主人公と自分を重ね合わせ、いつかこんな冒険をしてみたいと思ったのを覚えている。


 だが……。


 本当に見ず知らずの世界へ召喚されるなんて誰が想像するだろうか。それに、アニメやゲームで多少の予備知識があったとしても、それが役立つとは限らない。


「つまりは……誘拐だろ」


 それまで黙っていた勇人が核心を突いた。


「ゆ、誘拐とは人聞きの悪い!!」

「事実だろーが!!」

「……」


 ビンスは青ざめた顔で必死に否定するが、茜に一喝されてうなだれてしまった。落胆したビンスは腰を押さえてうめくガンバルフに近づき、ヒソヒソ声で話しかける。


「ガンバルフ先生、今回の勇者さまは人数も多いですし……とは勝手が違いますね」

「ウ……ウム……」


 ガンバルフはいかめしい顔を苦悶で歪めながらうなずいた。

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