ある英雄とある魔獣
肥え太った貴族の男が剣を振り上げた。
兄さんが俺を抱え込んだ。
音が鳴った。
顔に熱を感じた。
兄さんの血だった。
……。
……。
……。
「ごめん、ごめんね……」
ルシアが嗚咽を上げながら、真新しい墓石を抱き締め続ける。
彼女を慰めるべき俺も、真っ白になった感情に、動く事ができなかった。
(……)
王が死ぬという噂が流れ出し、三人の王子達が争い出した。
兵士達が殺気立ち、町の中に見ない顔が増えた。
いずれ血の雨が降るだろうと言う者はいたが、そんなもの、俺達には関係無い筈だった。
結局、俺はバカだったと、最悪の形で証明された。
凶手は言葉を残した。
―― その女は、王の……。
「フェルナンド」
生まれる事の無かった、俺の子供。
涙は雨と混じり、血と混じり、顎先から落ちて行った。
* * *
四枚の鋼の翼を広げ、音速を超えて飛行するテンペスタージの先に、天へと聳える赤い壁が現れた。
それを突き抜けた先に、直径三十kmに及ぶ、灼熱のマグマの海が在った。
「何つーか、ド派手なのが出てきたな」
正面。
マグマの上を、無数の炎の海賊船が走っていた。
船上で燃え盛る骸骨達が、悲鳴のような歌声を上げ、それらを時に踏み潰しながら、溶岩の巨人達が踊っていた。
そして。
『ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
魔獣と呼べるのかさえ分からない怪物達の中心で。
山のような大きさの赤い髑髏が、穴という穴から溶岩を垂れ流し、楽しそうに笑っていた。
「シリアスの
テンペスタージの魔力計の針は、この領域に入ってすぐに、計測限界へと振り切れた。
機体の中、防御障壁と精霊鋼、保護結界と防御機構に守られているのにさえ、身体が潰されそうな程の、魔力波動の圧力を感じる。
「さて……」
腰部重加圧魔導砲二門を起動し、右に機兵用魔導剣槍【
骸骨は歌い、巨人は踊り、髑髏は笑う。
誰もテンペスタージを、俺を敵とは見ていない。
「ショックだねぇ。スパニーナ帝国軍十二万を単独撃破して、イブラン王国の五分の一を焦土に変えた、この英雄様が無視されるなんて」
魔力炉の出力を上げる。
翡翠鋼と黒珠鋼の力が脈動し、その色が洸を放ち出す。
『
初めて聞いた、髑髏の声。
溶岩を垂らす
「初めまして。俺は人の国で英雄と呼ばれるものだ。お前が邪魔だって聞いたんで、わざわざ排除しに来てやった」
『?』
「通じないか。まあ言葉をしゃべるったって、結局は魔獣だしな……」
『ソウカ、オマエハ、ワタシヲ食ベニキタノカ?』
一応大意は理解したようだ。
「ああ、そうだ」
『ワカッタ。ナラ、オマエヲ』
魔獣の殺気に、俺の脳髄が一瞬で冷えた。
『ワタシガ、食ベテヤル!!』
//用語説明//
※【テンペスタージ】
ボルトニア王国空軍王命特別登録機兵。
全長七.三m、総重量五.一tの戦闘装甲ゴーレム。
機体のオリジナルネームは【
装甲は右半身に翡翠鋼(分類属性:風)、左半身に黒珠鋼(分類属性:闇)の、それぞれ『
『夢久の予言者』や『護法の剣聖』と称えられる
腰部の左右に重加圧魔導砲二門。
胸部中央に『内外結合式複合錬玉核使用法陣型魔導増幅器搭載魔法砲』という正式名称を誰も呼ばない、【ゴスペル】一門。
大型ゴーレムを千単位で
※【精霊鋼の等級】
その質を、
精霊武器になるのは
伝説である【
※【
魔獣の究極であり、輝く血を持つ存在。
千年以上を生きて強靭な肉体を得た魔獣が、霊脈に巣くう巨大な
//
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