金星の祈り ヴィーナス

雨世界

1 綺麗ですね。……宇宙って、本当に綺麗。

 金星の祈り ヴィーナス


 登場人物


 キキ 金星を目指す少女


 ペコ 途中で電車に乗ってくる少年


 本編


 金星までの旅


 綺麗ですね。……宇宙って、本当に綺麗。


 その日、キキは東京から金星行きの電車に乗った。

 ホームは18番線だった。

 キキは旅行用の大きなトランクに荷物をいっぱいに詰めて、東京駅18番ホームにまで移動して、そこで金星行きの電車が到着するのを待っていた。

 季節は十二月。

 金星行きの電車を待っている乗客の数はあまり多くなかった。

 金星って、あんまり人気ないのかな?

 キキはずっと昔から金星に憧れていたから、実際のところ、金星がほかの星(たとえば火星とか木星とか土星とか)に比べて人気があるのか、ないのか、よくわからなかった。

 月は近いから日帰りできてちょうどいいとか、火星よりも遠い場所、つまり木星などの小惑星帯より遠くになってしまうのはいやだとか、そんな話は聞いたことがあったけど、その話から推測すると金星は結構人気がありそうに思えたのに、……キキはなんだかちょっとだけ、がっかりしてしまった。

 ……まあ、でも考えようによっては人が少ないほうがゆっくり旅行ができて楽しいかもしれないし、もうすごく高い切符も買ってしまったし、今更引き返すこともありえないし、大学の休みも変更できないし、このまま金星行きの電車に乗るしかないだろう。

 うん。そうしよう。

 キキはホームにあるコーヒーショップで、生クリームのたっぷりはいった甘いチョコレート味のコーヒーを買ってそれを飲んだ。

 すごくおいしい。

 それに体もとっても暖かくなった。 

 そんなことをしていると18番線のホームに金星行きの電車がやってきた。青色に白の線画入った夜行電車。

 キキは切符の番号を確認して、その金星行きの電車の前から三番目の(三番)車両に乗り込んだ。

 その電車にその日、東京駅から乗った乗客は、キキを含めてたったの六人だった。

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