ボクは橋を攻める

 御羽火おうか島北部を流れる三七みな川。そこを縦断する用にかけられた三七川橋。その長さは400mほど。歩道と二車線の車道で構成される。

 警察ゾンビはその両端にパトカーを展開してバリケードを作っている。先ずはそこを突破し、その後に橋に陣取る警察ゾンビを打破しなければならない。

 ジェラルミンの盾(SRランクの盾)を持つクランが突撃しているが、警察ゾンビの弾幕の多さになかなか前に進めないでいた。仲間数名を守りながらだから仕方ない。そして耐えきれずに撤退していく。

 昼に大橋を攻めに来たクランの数は五組。そのうち三組が先行して返り討ちに会い生き残りが基地で療養。そして今四つ目のクラン――【ナンバーズ】の先行部隊が撤退したのだ。威力偵察としては充分と判断したのだろう。徹底の迅速さは見事なもんだ。

 というわけで残りはボク等【バス停・オブ・ザ・デッド】のみである。


「警察ゾンビの装備は拳銃と警棒。あとは手錠を持ってるよ」


 改めて、警察ゾンビの特徴を情報共有する洋子ボク

 遠距離近距離対応できるうえに、『麻痺』のバッドステータスを与えてくると言う事である。おまけに警察と言う仕事上なのか、動きも他のゾンビよりも軽やかである。犬ゾンビ程動きは俊敏ではないが、拳銃から警棒、そして手錠への切り替えが素早い。


(装備の切り替えが早いタイプ。要するに、洋子ボクと同じ方向性なんだよね、警察ゾンビ)


 ただし洋子ボクはバス停を素早く振り回す系列。警察ゾンビは複数装備を切り替える系列だ。


「にしてモ、ゾンビのくせにバリケード作るとか。頭いいヤツがいるみたいデスネ」

「それなりに知恵のあるゾンビが指揮を執っているのかもね」

「……あの、ソンビに知恵ってあるんですか? 音子、そんなの見たことないですけど……。もしかして彷徨える死体ワンダリングみたいなのが、いるんですか?」

「あー……。そういうのとは違うけど、高ランク狩場のボスゾンビは喋ったり知恵があったりするんだ。統率者リーダー的な存在かな」


 怯える音子ちゃんにそう告げる洋子ボク。推奨ランク40辺りから、喋って来たりフィールドに罠を仕掛けたりするゾンビが出てくるのだ。


「つまり『大橋』にそう言った高ランクのゾンビがいると言う事ですか?」

「そう見てもいいかな。バリケードの奥に陣取る警察ゾンビと、恐らくどこか――多分パトカー車内かな?――に潜んでいる伏兵がいる。

 迂闊にバリケードに近づけば、銃で足を止められて伏兵が出てきてタイホーって感じだと思うよ」


 その後はフルボッコにされてゾンビの仲間入り。先行したハンター達もそれで何割かが犠牲になったと言う。ゾンビ化した生徒が見られないのは、警察故に補導されたのかな?


「聞けば聞くほど打ち手無しですね。

 やはりしばらくは防衛に徹して数を減らすのが良策なんじゃないですか?」


 福子ちゃんがため息交じりにそう言い放つ。ハンター委員会副会長さんが行っていた【ナンバーズ】の作戦だ。実際、それは有効だろう。

 というより、これは真正面から攻めるには骨な戦況だ。数を減らさないと先に突撃したクランの二の舞になる。

 実際、【ナンバーズ】の策に従ったのかこちらに来るクランやハンターは少ない。威力偵察に来た【ナンバーズ】も、既に撤退している。


「うんうん、困難な状況だね。

 だからこそ、攻める。そして打ち破る! そんなボクってカッコいいと思うでしょ?」


 親指を立てて洋子ボクを刺し、笑みを浮かべる。

 誰もが不可能と思う状況を打破する。それこそが洋子ボク! 見た目可憐でかわいい少女がバス停を手に戦場を駆け抜ける。やーん、カッコイイ!


「……まあ、ヨーコ先輩らしい理由です」

「でしょ! もー、福子ちゃんもようやくボクの凄さが分かってきたみたいだね!」

「ヨーコ先輩の凄さは前々から……ではなく! だからと言って真正面から突撃、とか言い出すんじゃないでしょうね? 流石に無理ですよ」

「ん-。統率取れてないゾンビならともかく、隙なく撃たれたら厄介かな。リロードの瞬間に別部隊が弾幕重ねる、とかやられたら突撃する余裕がないし」


 防御からダッシュに移行する隙間フレームに攻撃されると、どうしようもない。


「それでも『厄介』ですむのがバス停の君らしいネ」

「じゃあ、音子が陰から移動するのはどうです? バリケードの裏に回って、ゾンビを誘えば隙はできますよ?」

「駄目。それだとボクらがバリケード突破する前に音子ちゃんがやられちゃう」


 流石にバリケードまでダッシュ+乗り越えて攻撃、は数秒かかる。見えているだけで三〇は越えるゾンビを前に、音子ちゃんが耐えられるとは思えない。


「で、どう動くんです? どうせもう作戦は決まっているんですよね」

「まあね。皆に結構無理してもらうけど、ヨロシク!」

「このクランに来て無理してない狩りってなかった気がするデスヨ」

「えへ、音子頑張りますね。何でも言ってください」


 そして【バス停・オブ・ザ・デッド】は動き出す――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「やっほー!」


 言いながら洋子ボクはバリケードに向かって突撃する。全力で走れば一〇秒も経たずにバリケードまでたどり着けるが――当然それを許すゾンビではない。パトカーで作られたバリケードから顔を出し、拳銃を打ち放ってくる。


「のわっ、よ、やばばっ!」


 それらを避け、そしてバス停を盾にして塞ぐ洋子ボク。五体を一グループとして僅かにずらして射撃を行い、隙を埋めている。ただ無造作に撃っているのではなく、何者かに統率された動きだ。


(でもま、こいつらの動きはAI管理。優先順位が高い方を優先するから――)


 洋子ボクはアイテムバックの中からシャドウワンを取り出し、放り投げる。人形自体が軽いこともあって遠くには飛ばないが、数m離れた場所に落ちた人形は一瞬で洋子ボクの姿を模す。


「たったかたーん! ボク、華麗に参上!」


 言ってポーズを決めるシャドウワン。決められた台詞、決められたポーズをとった。うーん、ボクカッコいい! 第三者目線から見るとこんな感じなんだ。最高!


(――っと、見惚れてる場合じゃない!)


 シャドウワンが現れたことで、ゾンビの弾幕は洋子ボクとシャドウワンの両方に降り注ぐ。それは洋子ボクの方への弾幕が薄くなることと同意だ。


「これなら、行ける!」


 その隙を逃さす、一気に走る洋子ボク。戦闘能力のないシャドウワンが一瞬でハチの巣になって消えるのを感じる。一秒後にはそちらに向いた銃口がこちらに向きなるだろうが、その前にパトカーを乗り越え――パトカーの扉が開き、警察ゾンビが襲い掛かってくる!


「怖っ! いきなりドア開けて襲い掛かるゾンビとか――」


 警棒を手にした警察ゾンビが警棒と手錠を手に迫ってくる。そしてパトカーの向こう側で銃を構えるゾンビ達。


「――映画じゃお約束過ぎて、観る人は飽き飽きするよ!」


 ゾンビの数。武器の射程範囲。攻撃タイミング。それら全てを脳内で構築する。同時にどこに移動すればいいかをイメージし、体は自然と動き出す。

 間近にいるゾンビの腕をバス停で払い、移動してはためいたブレードマフラーがソンビの胴を割く。警棒と手錠の攻撃範囲から逃れながら、向けられる銃口を意識する。攻撃直後の僅かな硬直。このタイミングで撃たれれば、洋子ボクに避ける手立てはない。

 まあ、避ける必要もないんだけどねっ!


「秩序を守る立場にありながら闇に堕ちた者達よ。汝の魂、ここに救済せり」


 聞こえてくるのはそんな声。朗々と響く福子ちゃんの声は、洋子ボクの上から聞こえてきた。橋の欄干。橋から人や車が落ちないように設置されている柵。そこに立ち、福子ちゃんはポーズを決めていた。


(ボクが囮になっている間に走って浮遊ブーツで一気にバリケード乗り越えて攻めて、って作戦だったけど……まあ、これはこれで)


「首を垂れて、罪を数えるがいい。『漆黒の翼シュヴァルツ フリューゲル』!」


 声とともに乱舞する福子ちゃんのコウモリ。きっちり洋子ボクを狙っているゾンビを優先して倒してくれるのがありがたい。

 さて、一気に攻めるよ!

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