第四章:非法制裁 ― Death Sentence ―

静岡県富士宮市 二〇一X年八月二〇日近く

 一九〇㎝を超えるあいつと、一六〇㎝台前半のおいら、そして小学1年生ぐらいの女の子。見事なまでの凸凹トリオだ。

 富士宮市の……おそらく中心部……市役所の近辺には、いくつものテントが並んでいる。

 日本政府そのものが、まだ無事か不明な中、地方自治体や一般市民が自発的に災害対策本部・司令部のようなものを作っていた。しかし、もちろん、手慣れているようにも見えず、人手も足りていない。そもそも、何をすべきか、こんな場合、どうするのが教科書通りで、何をしてはいけないかさえ判っていないようだった。

 もちろん、俺達も他人ひとの事をとやかく言えた義理では無い。全てが手探り状態のまま、1つでも多く救える命を救い、1人でも多く助けられる人を助ける……。それが、今、俺達がやっている事だ。

「よう……」

 そう声をかけたのは、この辺りで活動している「同業」だった。

「そっちは……大丈夫か……」

「子供は無事だが……カミさんが死んじまった……。俺の親とも、カミさんの親とも連絡が取れない」

「余計な事だが……その子……お前の子供か?」

 そいつの横には……俺達が連れてる女の子と同じ位の齢の女の子が居た。

「いや……俺が救助した子だ……。一応、この子の名前と、親の名前が判ってる……。どうも、東京に『おばさん』だか『おねえちゃん』だが居るらしいが……」

「東京も、ほぼ壊滅だ」

 九州から、こちらに救助活動に来た仲間の1人、コードネーム「水天ヴァルナ」は、横浜に居る兄一家の安否を確かめるべく、俺達と共に居る子供を見付けた後は、別行動をする事になった。

「先に言っておくが……すまん……この騒ぎが一段落したら……組織ネットワークから抜ける」

 こちらの「同業」が、そう言い出した。

「どうした?」

「顔と名前が一般人にバレた。もう、この稼業を続ける訳にはいかない」

「そうか……まぁ、いい。ここで、少し、休めるか?」

「ああ……」


「どうしたんだ、その頭……?」

「坊主になった……」

 俺の連れがそう答える。

「この齢で、坊主の修行を始めようとしたが……ウチの宗派の総本山も、こんな状況では無事では済みそうにないな……」

「坊主って、どうして?」

「一〇年近く……ずっと考えていた。この稼業に必要はモノは何かをな……」

「それで坊主か? 意味が判らん」

「悪人を殺すなら……殺し屋でも出来る。人を助けるなら……他の手段も有る……。俺達は……宗教家みたいなモノじゃないかと思うようになってな」

「はぁ?」

「いざと云う時に……他人の命や幸せの為に、自分の大事なものを捨てる決断をする。俺に、それが出来ないなら……俺がこの稼業を続ける意味は無いような気がしてきてな」

「それで坊主か……」

「あと……相談だが……しばらく、あの子を預かってもらえないか?」

 俺達が連れて来た女の子は、もう1人の子と遊んでいた。

「判った。それ位なら……」

「いずれ……児童擁護施設を作るつもりだ……。その内に、そこに引き取る」

「ところでよぉ……」

 俺は、ふと口を挟んだ。

「この稼業から足を洗うんだったら……本名ぐらい教えてもらえねぇか?」

 俺達の組織ネットワークでは、他のチームのヤツの個人情報を知るのは御法度だった。


 それから、ヤツ……石川智志さとしと、ヤツの家族、そして俺達がヤツに預けた女の子は……「関東難民」の避難場所として作られた、1つ目の「Neo Tokyo」に移り住んだ。

 しかし、それからすぐ、俺達と石川智志さとしは、事実上、袂を分かつ事になった。

 ヤツは、1つ目の「Neo Tokyo」の通称「秋葉原」地区で、よりにもよって顔と名前を晒して「ヒーロー」活動を始めた。逆に、同じ「ヒーロー」稼業であっても、顔や名前を隠し活動している俺達とヤツが下手に接触する事は……俺達の身を危うくする事に繋がる。

 そして、その女の子は……ヤツ……石川智志さとし……が親代わりに育てる事になったが……。しかし、ヤツは5年後、「自警団」同士の抗争で、あっさり死んでしまった。

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