(3)
猿が筆ペンで呪符みたいなモノを書いている。冗談みたいな光景だ。
お猿さんは呪文みたいなものの唱えてるようだけど、当然ながら猿と人間の発声器官は作りが違うので、仮に「呪文」だとしても人間であるあたしの耳には「呪文」ではなく「鳴き声」にしか聞こえない。
「効力は一二時間
「猿丸」さんの人間の方はそう言った。
「胡麻化すって?」
「『九段』のあっちこっちには、あたしの相棒が、あんたん
「九〇%台前半って、どう云う意味?」
そう聞いたのは「ハヌマン」。
「えっ?」
「5つ全部が巧く動作する確率が九〇%台前半って事? それとも1枚につき一〇%弱の失敗率が有るって事?」
「ええっと……後者かな?」
「ちょっと待って下さい、だとしたら、ざっとした計算だと……どれか1つでも巧く動作しない確率は二〇%ちょいから……四〇%台ぐらいに……」
続いて今村君。
「とは言っても、基本的に5つの呪符は同じモノなんで、どれか1つが巧くいけば、他のも巧くいく確率が高い。どれか1つでも失敗したら、他のもマズい事になる確率が高くなる」
「なるほど……全部OKか全部NGの確率が極端に高くて、1つか2つだけがNGなんて事になる確率は、逆に低い、と」
「まぁ、そんな感じかな? まぁ、あくまでも経験則だけどね」
「あと、そんな事が可能なら、他の『魔法使い』なんかが同じ手を使ったり……」
続いて、あたしが、ふと生じた疑問を口にする。
「ところが、その手の結界には、それぞれ『癖』や『流儀』が有る。その『癖』や『流儀』が判んないと、この手の偽装は成功率が下るんだけど……、普通の『魔法使い』『呪術師』が、結界の『癖』や『流儀』を知る為には『結界』内に入るか、その『結界』に何かの干渉をしないといけない。だから、あたし達みたいな『魔力・呪力・気は感知出来るけど、自分は大した力を持ってない』のと『そこそこ以上の魔法を使える』のが感覚を共有してる場合じゃないと、この手をやるのは困難だ」
「つまり、普通は、どう偽装すればいいかを知らべようとした時点で、そこそこの『魔法使い』が何かやろうとしてる、ってバレちゃう訳ね」
「そう云う事。『魔法使い』を策略で出し抜くのには『魔力や呪力や気を検知出来るけど、魔力や呪力や気の量そのものは少ない』奴が、『魔法使い』と正面からぶつかるには『そこそこ以上の力の魔法使い』の方が向いてる。あたしと相棒の2人1組は、その2通りのやり方のどっちも出来るって訳」
「で、あたし達に、その偽装の護符は要らないの?」
「私や君の力は魔法や呪術に似て非なるモノだ。魔法的な手段では一般人……少なくとも『魔法使いじゃない何者か』と識別される筈だ」
今度は荒木田さん。
「でも、『靖国神社』の呪術師達が『式神』『
続いて「小坊主」さんが説明する。
「つまり、『靖国神社』の呪い師が、あたしや荒木田さんを攻撃したら……いきなり倒れたりするけど、同僚だか何だかの呪い師が『何か変な事が起きた』『何か訳の判んないヤツが居るらしい』って事に気付く訳ね」
「そして……私が前回、派手な事をしたせいで……多分、気付かれてる。奴らにとっては、奴らが使ってる『死霊』が多数消滅した挙句、その理由や原因が良く判んない、って状態だろうな……」
「それで、『靖国神社』が、どう出るか……。呪術より物理力重視で来るかも知れんな」
「マズそうだったら、戦わずに尻尾巻いて撤退も有り得ます?」
そう聞いたのは「早太郎」こと今村君。
「お前の『能力』の事は聞いてる。でも、軍用の自動小銃とかで撃たれたら……」
「試した事は無いですけど……普通に死ぬ可能性は無視出来ない程度には……」
「お前は、たまたま手伝いに来た部外者だ。俺が指示するか、お前がマズと思ったら……俺達を見捨ててでも逃げろ。まずは自分の命を最優先にしろ。……それは……そこの2人も同じだ」
そう言って「おっちゃん」は、片方の人差し指で荒木田さんを、もう片方の手の人差し指であたしを指差した。
頼りになりそうな人達は来てくれたけど、状況は悪そうだ……。つまり、時間は無いのに、情報は少ない。
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