佐賀県鳥栖市某寺 二〇二X年八月一五日

「仏の平等の説は一味の雨の如し。衆生の性に随って受くる所不同なること、彼の草木の稟くる所各異るが如し」

 三月に死んだみちる姉さんの初盆の法事が、伯父さんが副住職をやっているお寺で行なわれていた。

「おい、治水おさみちゃん……瀾とウチのバカ娘に……居眠りするのはいいから、せめて、いびきだけは何とかしろ、と言ってくれ」

 うしろに座ってる門司もじの伯父さん……正確には父さんと伯父さんの従兄弟いとこが、そう言った。

「そもそも……徹夜で何やってたんだ、あの2人?」

「……た……多分……あっちの伯父さんにバレたら……怒られるような事……」


 そして、法事と昼食が終り、お開きになった後……。

「瀾、苹采ほつみ、ちょっと来い」

 伯父さんが、瀾ちゃんと又従兄弟の苹采ほつみ姉さんを呼び止めた。

 良く有る「良い報せと悪い報せが有る」ってヤツだ。良い報せは、伯父さんは不機嫌そうだが、怒ってるようには見えない事。悪い報せは……伯父さんが、身長一九〇㎝以上、体重は瀾ちゃん3人分以上の筋肉の塊だって事。

「元さんから全部、聞いた」

「ら……瀾、お前、何か余計な事を……」

「孔井のおっちゃんに応援を頼みました」

「何、考えてんだ? そんな事をしたらバレるに決って……」

「マズい事は早くバレた方が傷口は小さいでしょ。それに……素人で何とかなる話じゃない。誘拐された2人の内、女の子の方は特に……」

「お前の判断については、合格点ギリギリと言った所だな」

「ギリギリ?」

「ギリギリでアウトと云う意味だがな。緊急を要する事態だったのは判る。だが、助けを求められた時点で大人に相談しろ。治水おさみさんに連絡をしてもらうなど、手は有った筈だ」

「……はい……」

「次に言いたい事は判ってるな?」

「……概ねは……」

「破門を解くのは、延期だ」

「……は……はい……」

「ウチの一族の連中と元さん以外に、誰でもいい、お前にとっての『こう成りたい大人』を見付けろ。そうしない限り、また、お前は同じ事をやらかす」

「えっ?」

「お前は、俺達のやり方を見習ってるつもりだろうが……俺達がやってきた事が必ずしも正解とは限らん。見習うべき手本となる誰かが1人しか居ない奴は危なっかしい。例え、俺が自分で思っているよりも立派な人間だとしてもだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る