(4)
「と、言う事が有って、もう三〇分以上、連絡なし。こっちから連絡しても応答なし。で、正義くんや仁愛ちゃんにGPS持たせてるよね」
あたしはバイトから帰って来た勇気に、これまでの経緯を説明した。もちろん、あたしと荒木田さんの持ってる「能力」に関する事は省いて。
「ちょっと待て、あいつらの
「どうしたの……? ん? 1つは、ここの近くで……もう1つは……?」
「この近くに表示されてるのは正義だ……。仁愛は……これって……移動中かよ?……推定速度が……時速四〇㎞」
「車を借りられるアテは有るか? 私が運転出来る」
荒木田さんは、そう言った。
「俺の親父が使ってた車が有ります。今は、近所で共同で使ってますけど……」
「追う。案内してくれ」
「えっ? でも……」
「ここじゃあ、警察はアテにならないし、自警団とやらは、それ以上にアテにならないんだろ? 自分達で何とかするしか無い」
「まぁ、そうだけど……」
「何とか成るのか?」
「……ええっと……多分」
あたし達は、部屋から出て階段を降りる。まぁ、多分だけど、
「お……おい、何で、ここに居る? あと、友達は無事か?」
外の階段の途中で
普通のTシャツにズボンだけど、どう見ても「近所や兄弟のお下りのお下がりの……」みたいな感じの子供用なのに富士の噴火以前に作られたような
「えっ……と、何で、ここに居るの? ダーク・ファル……」
「まずは、質問に答えろ、友達はどうした? あと、物理空間上では、その名前で呼ぶな」
「連れ去られた……。正義くんの……お姉ちゃんも……」
「誰に?」
「判んない……黒いバンに乗った……どっかの軍隊の戦闘服みたいな迷彩模様の服を着た……。他にも車の中に何人か、子供が居たけど……薬で眠らされてたみたい」
「黒いバンに戦闘服って……まさか……バンや戦闘服に、昔の日本の国旗とか、旧自衛隊や特務憲兵隊のシンボル・マークとか、そんなのが
「……う……うん」
「英霊顕彰会かよ……」
「何者だ?」
「『九段』の自警団。かなり強力な死霊使いがリーダーで、幹部は神道系の呪術者がほとんど……みたい」
「自警団が子供を誘拐するのか?」
「自警団ってても、半分はヤクザ。資金源に攫った子供を売ってる……。どうも、『
一応「日本政府」は名乗っているが、わざわざ、頭に「正統」を付けてる時点で「誰からも『正統な日本政府』だ」と見做されてない事だけは自覚してる連中。要はテロ組織か事実上のヤクザ。早い話が、昔、「異常な日本人」だと見做されても仕方ない事を自覚してるヤツほど、「日本を愛してるだけの普通の日本人」だと名乗ってたようなモノだ。
もちろん、そこと仲良しの「英霊顕彰会」の通称である「靖国神社」も似たようなモノで、「火山灰の下の『本物の靖国神社』の後継組織を自称してるが、『中の人』でさえ、そんな事は信じてない」から、逆に「靖国神社」と云う呼び名が、これ以上無いぐらいの嫌味になっている。
「冗談みたいだな……。おい、お前の親が心配して博多に来てる。今夜一晩は、ここに泊めてもらえ……って良いよな?」
「えっと……うん」
「それと、友達のGPSを何でお前が持ってる?」
「逃げる途中で、ボクにコレを渡してくれた……。これが有れば、万が一の場合でも、正義くんのお兄ちゃんが助けてくれるだろう、って」
そう言って、その子供は、
「明日、朝一のフェリーで本土に帰れ。そして、親にみっちり怒られろ。あと、友達の部屋から出るな。玄関のドアには内側からチェーンをしておいて、私達が帰って来ても、合言葉が違ってたらチェーンを外すな」
「合言葉?」
「そうだな……『次のいちご狩りは?』『来年の2月』でどうだ?」
「わかった」
荒木田さんは、テキパキと「香港の金持ちのガキ」らしき子供と、あたし達に指示を出す。
「何か……その……こんな事慣れてるの?」
「今年の4月に福岡の大学に入学するまでは、こんな事には縁が無かった……。けど、福岡に来てから、この手の騷ぎに巻き込まれたのは……これで、3回目か4回目だ」
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