第19話 帰り道

「庸介ー、今日の晩ごはんって、何〜?」


 隣で器用に後ろ手を組みながらスキップしているミティは、白い吐息を溢す口で、実に楽しみといった口調で尋ねてくる。

 見上げてくるミティは、褐色黒髪が着込んだ白のダウンによく映え、その輝くような笑顔をより印象付けている。


「今日はシチューにするって言っただろ」


 庸介の言葉に両手を突き上げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねるその姿は、見た目よりもずっと無邪気だった。

 そんな姿を見ていると、ふと、その姿が――もし娘が生きていれば、あの年頃だったかもしれないと、そんな錯覚を覚えた。

 思わず感傷的になっていた庸介の左腕に、柔らかな重みが加わる。

 さっきまで傍で飛び跳ねていたミティが、無言で庸介を見つめながら腕に抱きついている。

 短い付き合いのなか、ミティのスタンスは常に一定だった。


『背中を押し、分かち合うように隣を歩く』


 何も言わないが、ミティの真摯な瞳は、その心を如実に表していた。そんな想いに庸介は相貌を崩すと、小さく「……帰るか」と呟く。

 その言葉に、ミティの顔はぱっと明るくなった。


「庸介、庸介。私、庸介に出会って本当に幸せだよ」


 屈託のない笑顔で、自分の想いを素直に表現するミティに、庸介はぞんざいな返事。膨れるミティをなだめる庸介。

 手を繋ぎながらいつものように歩く二人の頭上には、ちらちらと雪が舞い始めていた。



 帰宅後、ミティはリビングのコタツでテレビを点け、庸介はエプロンを身に着けキッチンで夕食の支度。いつものポジションの二人。

 シチューの準備のため、じゃがいもやニンジンをザクザクと大きめに乱切りにしていく。まな板から軽快な音を響かせていた庸介の耳に、ミティの少し慌てたような声が響いた。


「よ、庸介、ちょっとこっち来て」


 少し緊張したその声に、庸介は包丁を置き、リビングのミティの傍へ。そこで目にしたのは、ミティが見ていたローカルのバラエティー番組ではなく、慌ただしい緊急ニュース番組の画面。

 映し出されたテロップにはこう・・書かれていた。


 —— 大規模反社会的組織のトップ逮捕。男は「夜の王」を名乗るVamp症感染者。

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