急
第17話 依頼後
「ふぅ」
いつの間にか掘られていた墓穴に三人分の遺体を埋葬した庸介は、額の汗を拭うと、手に持ったスコップを地面に突き刺した。
満足気な依頼者の死に顔と、入らないであろう依頼金。そして勝手に助手席に乗せられた腐敗しかかった遺体に、複雑な気持ちになる。尤も、自分は助手席に座らないのだが。
ホテルの中にも、まだ遺体が山ほど残っているが、そちらは不用意に誰かが踏み込まない限り見つからないため、放置でいいだろう。
丁度いい情報源も手に入ったため、不確かだった敵の人数も把握でき、討ち漏らしもなく
それよりも、あの男から入手した情報の整理の方が重要だ。
車に乗り込み、エンジンをかけながら情報を反芻する。
夜の王——
自称、本名は不明。感染時期も活動開始時期も不明。
ただし、最近急激に勢力を拡大。高末のグループを襲ったのも、勢力拡大の一環か。配下の数は非常に多く、この街で相次ぐ感染者絡みの事件の多くは、どうやらそいつらの仕業らしい。
本拠地も、配下にすら知られていないようだ。
(不明ばかりだな)
それとたしか、夜の王は「ブラッドルーラー」というものを目指しているらしく、その点で感染者たちの中でヒエラルキー上位の古い感染者たちと対立している、と。
情報を得るのならその辺りからか?伝手はないが。
やはり、情報源の有用性は替えが利かないものだと痛感する。
スマートデバイスから帽子山の電話番号を呼び出し、ハンズフリー通話で発信すると、庸介は少し籠った発信音を聞きながら車を発信させた。
「旦那、お久しぶりです」
8コール後に電話をとった帽子山の声は、いつものように胡散臭い響きをしている。
「久しぶりなのはお前が帰ってこないからだろ」
帽子山がこの街を離れる前に受けた依頼の完遂はすぐに連絡していたが、一向に帰ってくる気配のないことを責める雰囲気を滲ませると、帽子山は悪びれることなく笑う。
「実は、ウチの雑誌を全国展開しないかって話がありやして、少し出版社と打ち合わせ––」
「そりゃ詐欺だ」
浮かれた言葉を被せ気味に否定すると、帽子山は「ひでぇよ旦那」と泣きそうな声をあげる。もちろん無視して、こちらの要件を伝える。
「「夜の王」に「ブラッドルーラー」それと古株の感染者の心当たりですか」
一転、情報屋の雰囲気を出す帽子山は、一拍置くと、惜しげもなく情報を吐き出した。
「「夜の王」だけはよく耳にした情報ですね。といっても、危険だという類の情報だけですけどね」
帽子山は「むしろ」と付け加えると、最近急激に勢力を伸ばす「夜の王」のグループに危機感を抱いている警察が、彼らに目をつけていると続けた。
「警察内部の情報なら、旦那はホラ、あの旦那にゾッコンの小ちゃい嬢ちゃんに聞いてみたらいいんじゃないですか?」
付け加えた帽子山は、きっと電話の先で下品な顔で笑っているのだろう。
「あいつは俺じゃなく、沙耶に憧れていただけだ」
否定した庸介は「またまたぁ」と揶揄い口調の帽子山との通話を無造作に切ると、今朝会ったばかりの旭の顔を思い出す。
確かに帽子山の言うとおり、何かしらの情報は得られるかもしれない。
庸介はウインカーを出して車を路肩に停めると、まだ残っているか、警察時代の後輩である旭の連絡先を探した。
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