Operation Red-eye Effect

 昼だった。


 進行中の軍用ジープ助手席で、キューバ軍のイバンは運転席の部下へと訊いた。

「時刻と場所に誤りはないな」

「はい。昨日の明け方、グアンタナモ湾で発生したそうです」

 部下の明答を聞くや、イバンが顎に手を当てて無精ひげを掻きながら言う。

「空爆があった頃か、怪しいな。前回は政府軍が対象だったのに、今回は我々に害を及ぼすというのも不可解だ」


 ゾンビ化現象の調査のためにシエラ・マエストラ山脈に派遣されたイバンは、着いて早々、その支脈であるグラン・ピエドラの部隊に迎えられ一緒に東を目指すはめになっていた。なんでも、グアンタナモ湾の周辺で再びゾンビ化現象が起きたのだという。

 湾を見張っていた兵士や近隣の住人が何人か被害にあったそうだ。回復した者もいるが、まだあの症状が持続している者もいるらしい。

 謎への思案に暮れながら、イバンは窓枠に肘を載せ手の平の上には顎と頬を載せていた。そのとき、傾いた視界に運転手の横顔が映り、信じられない光景が飛び込んできた。


「おい!」

 イバンの呼び掛けに、運転手が顔を向けた。

「もういい」すぐにそう言って、振られたような隣人を置いてイバンは自らの顔と車のミラー越しに対当した。「停車するんだ!」

 車載無線機と運転手にイバンが改めて叫ぶと、ジープに急ブレーキが掛かった。彼らの前後に並ぶ軍用車両も次々と停止し、イバンは飛び降りた。それから仲間の車内を覗きながら、喧伝してまわる。


「赤目現象が発生している。心身に異常はないか?」

 そう述べるイバンの瞳自体が、すでに赤みを帯びていた。警告を受けて、兵士たちも互いに、あるいはミラーで自分たちの目を確認する。

 誰もが赤目になりかけていたが、ハバナの患者たちよりは色が薄い。症状も表れていないようだった。しかも、だんだんともとに戻りだしている。


「ゾンビ化現象の発生源が近いぞ」

 言いながら、イバンはみなの目の色を比較していた。運転席の兵士よりも助手席の兵士のほうが赤く。左目よりも右目のほうが赤い。一行は、東へと走っていた。

「右に曲がれ」

 イバンは自分の車に乗りながら指図した。車列が再始動すると、無線機で全車両へと告知する。

「自分たちの目に注意しながら進め。ゾンビ病の患者と同程度に赤くなりそうになったら危ない、こちらに連絡して停車しろ」

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