第721話 十数日前、リトル東京では……

 話は十数日ほどさかのぼる。


 海斗達が北ベイス島に山頂基地を設営した頃、リトル東京では……




 リトル東京防衛隊第二作戦会議室は、地下深くに作られている。


 そこには、森田指令を始め数名の幹部が集合しており、その中には額に入れ墨タトウを入れられた三人目の海斗と、一緒にカルカから帰還したばかりの鹿取香子の姿もあった。


 彼ら彼女らの見つめている大型プロジェクターには、巨大なクレーターが映っている。クレーターの底はかなりの高温なのか、激しく煙を吹き上げていた。


 オペレーターの一人が報告する。


「ただいまドローンを地中に潜り込ませています。まもなく、結果が判明するかと……」

「報告を待つまでもないですね」


 諦め気味にそう言ったのは香子。


「衛星軌道から精密誘導弾二発を投下。さらにドローンから地中貫通弾バンカーバスター七発を投下したのです。レム神のコンピューターセンターは、跡形もないでしょう」

「そうだな」


 そう言った海斗の顔も、失望を隠せていない。


 海斗と香子だけでなく、ここにいる全員が失望の色を隠していなかった。


「カルカから提供された情報を元に、最後のコンピューターセンターを攻撃して完全に破壊した。それなのに……」

「レム神の影響は、消えていないわね」


 影響が消えないのは、破壊したはずのコンピューターセンターがまだ生き残っているからという可能性もあった。


 そこで確認のためにドローンを送り込んで偵察を試みたのであるが、コンピューターセンターは完全に機能を停止しているという事実を確認する結果となった。


「つまり、ここは最後のコンピューターセンターではなかったという事か」

「おそらく、カルカが核攻撃を受けた時点では、ここが最後だったのだわ。だけど、レム神が二十五年の間に何もしないはすがない。予備のコンピューターセンターを作っていたのよ」

「まあ、当然そうするだろうな」

「《天竜》は、熱源探知でコンピューターセンターを見つけたのよ。今からでも……」

「衛星軌道からの熱源探知なら、とっくにやったよ。奴は熱源をカモフラージュしたようだ。まったく見つからない。熱源探知がダメだとすると、どうやってこの広大な惑星から見つけ出すんだ」


 諦めムードの漂う中、森田指令が厳かに発言する。


「諸君。失望するのはまだ早い。我々にはまだ手段が残されている」

「指令。プシトロンパルスの事ですか? だけど観測装置を作れるルスラン・クラスノフ博士を、もう一人の僕がアーテミスの町へ置き去りにしやがった。捜索隊が町中をくまなく探したのに見つからない。南ベイス島に帰ったという報告もない。いったいどこに行ったのか? 指令、もう一人の僕が申し訳ないです」

「海斗、しょうがないでしょ。報告によるとルスラン・クラスノフ博士ってとんでもないスケベジジイで、芽衣ちゃんもミールちゃんもセクハラ被害に遭っているのよ。海斗だったら許せるの?」

「いや、許せない」


 オペレーターがメールの着信を報告したのはその時の事。


「カルカ艦隊からメールだと? して、なんと」

「はい。リトル東京への亡命希望者が、《海龍》に密航していたそうです」

「そんな事は、ここで処理すべきことではないだろう」

「そうなのですが、亡命希望者の名前を見て指令に判断を委ねたいと……」

「誰なのかね?」

「それが、今話題に上がっていたルスラン・クラスノフ博士と……」

「「「「ぬわにいぃぃぃ!」」」」


 森田指令は、メールの文面に目を走らせてから、オペレーターに指示を出した。


「直ちに、北村君に返信を送れ」

「はい。文面はどのように?」

「ルスラン・クラスノフ博士を、リトル東京へ丁重にお連れしろと……」

「了解しました」


 そして十数日後。


 リトル東京のヘリポートに、二機のヘリコプターが降り立ったのだった。


(第十六章終了)

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