第682話 恋愛解禁

 アーニャとレイホーが操縦する二機のヘリコプターが、クローン達と少年兵達を乗せて飛び立った。


 二機は、《海龍》ではなく南ベイス島へと向う。


 潜水艦では狭いので、リトル東京から迎えの船が来るまで、彼らをそこで待機させる事にしたのだ。


 それを見送ってから、僕はミールを抱き上げた。


 するとミールは両腕を僕の首に絡ませてギューっと抱きつき、芽依ちゃんをにらみつける。


「あのさ……ミール。《海龍》に着くまでは……」

「カイトさん、分かっています。ここはまだ敵地ですから……」


 芽依ちゃんもこっちを見ているが、ロボットスーツ越しなので表情が読み取れない。


 読みとれないけど、ミールを睨みつけているのだろうな。


 とにかく……


「それでは、芽依ちゃん。君はミクを。それから橋本君は、キラを運んでくれないか」

「はい」「承知しました」


 二人は、ミクとキラを抱き上げる。


「おーい。わしはどうやって戻るのじゃ?」

「ああ、忘れていたよ。ははは……」


 本当は忘れていないけど……ジジイの事は忘れたかったけど……


「若造。セリフが棒読みじゃぞ」

「そんな事はない。ミク、オボロを出して博士を運んで差し上げなさい」

「お兄ちゃんの頼みじゃ、しょうがないなあ」


 ミクは懐から憑代よりしろを取り出し、地面に叩きつけた。


いでよ! 式神」


 人型の白い憑代は、見る見るうちに金色の竜になった。


「さあ、おじいちゃん。オボロに乗って」

「おおい! わしだけ、扱いが違わないか」

「なによ! オボロの乗り心地が気に入らないとでも言うの?」

「いや、そんな事はないが。この竜には嬢ちゃんが乗ってだな、わしはメガネっ娘の九九式に運んでほしいのう。でへへへ……」


 世迷い事を言うジジイに、芽依ちゃんは振り向きもせずに答える。


「私には、ルスラン・クラスノフ博士を無事リトル東京にお届けする義務があります。この状況下で私が博士を運んだ場合、その義務を果たせる自信がありませんので」


 運んでいる途中で、ジジイを殺さない自信がないという事だな。


 実は僕もない。


 橋本晶も、ジジイを真っ二つにぶった切りたくてウズウズしているようだ。


「それでは、仕方ないのう」


 ジジイは渋々、オボロにまたがる。


 そのまま芽依ちゃんと、橋本晶とオボロが先に飛び上がり《海龍》へ向かって行く。


 それを確認してから、ミールを抱いたまま僕は飛び立った。


「カイトさん」

「なんだい? ミール」


 芽依ちゃんとの事を言い出すのかと思っていたら、違った。


「カイトさんがいない時にキラに言っておいたのですが、彼女の魔法使いとしての修行第一段階は終了いたしました」

「え? まだ早いのでは?」

「いえ。あたしの見立てでは、キラは十分に能力を制御できています。少なくとも、日常生活に支障はないでしょう」


 という事は、ミーチャとの恋愛は解禁?


「ですから、カイトさんにもご心配かけましたが、キラのミーチャ君への思いを、見て見ぬフリしなくてもよくなりました」

「それは良かった。僕もあの二人は、お似合いだと思うし……ただ、ミーチャがキラをどう思っているかだな」

「ですよね。ミーチャ君は、ミクちゃんが好きかもしれないし」

「ああ、それはない。ミーチャはミクを嫌ってはいないが、苦手みたいだ」

「そうなのですか? とにかく、キラには《海龍》に着いたら、ミーチャとイチャイチャするように言っておきました。ミクちゃんに盗られないようにするために」

「うん。いいんじゃないか」

「カイトさん。あたしたちも《海龍》に着いたら、イチャイチャしましょう」

「ええっと……一応、人目のつかないところで……」

「人目につくところでやらないと、メイさんが諦めないじゃないですか」


 ええっと……芽衣ちゃんに見せつけたいのか。


 それは……僕が悪いんだよ。はっきり言わないから……


 オボロの上から、ジジイが僕に声をかけてきたのはその時だった。


「おおい! 若造。潜水艦に降りる前に話しておきたいことがあるのじゃ。ちょっと、近くに寄ってくれ」


 なんだろう?

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