第652話 自爆する方法

 中央広場へと走り去っていくスパイダーを僕は指さした。


「カルル。あのスパイダーに乗っているのは誰だ?」

「マルガリータ姫さ」


 やっぱり。《アクラ》で、大人しくしていると思っていたのに……


「まったく、あのまま捕虜にしていればいいのに、余計な奴を返しやがって」

「捕虜を返してやったのに、恨まれる筋合いはない。しかし、あの姫さん。よくスパイダーなんか操縦できるな」

「ブレインレターを使った促成教育を《アクラ》で受けてきたらしい。成瀬の奴、余計な事を……」

「そいつは災難だったな」

「ふん! やっかいなショタコン姫だが、あの姫はミーチャが目当てでここへ来た。そして、海斗。おまえは、ミクにミーチャの格好をさせているな」

「なぜ、それを知っている?」

「なぜもなにも、ミクは子ヤギの見ている前で着替えていただろう。子ヤギの目を通して、レム神はその様子を見ていた」

「なんだと?」

「だが、その事を姫は知らない。使えない姫様だと思っていたが、このまま中央広場の陣地へ行かせれば、ミクをミーチャだと思って拉致してくれるさ」

「そんな事はどうでもいい」

「え?」

「カルル。おまえ、ミクの着替えを覗いていたのか!」

「え? いや……これはだな……」

「この変態! ロリコン!」

「ち……違う! 俺はあんな、まな板胸に興味はない」

「嘘をつけ。本当は喜んで覗いていたのだろう」

「違う! そもそも俺は見ていない。見たのはレム神であって、俺はミクがミーチャに変装していると話で聞いただけであって……ええい! おまえの舌戦の相手をしている場合ではない」


 カルルはネットを連続で放ってきた。


 そのうちの一つが僕の機体にかかる。


 ネットを切り裂いて脱出した時には、カルルのスパイダーは天井に張り付いていた。


「あばよ。海斗、ミクはいただいていくぞ」

「待て!」


 カルルのスパイダーは、そのまま走り去っていく。


「芽依ちゃん。橋本君。追いかけるぞ」

「「はい!」」

「そうはいかないわ! ここは私が通さないわよ! エステス様の邪魔はさせない」


 僕たちの前に、イリーナのスパイダーが立ち塞がった。


「どけ! 三対一で勝てるとでも思っているのか!」

「エステス様が目的を達成するまでの、足止めぐらいにはなるわ」


 イリーナのスパイダーが、ネットを連続で放ってきた。


 しかし……


「あら?」


 ネットの射出は唐突に止む。


 弾切れ……いや網切れか。


「ここまでのようだな、イリーナ。女を殺したくはない。さっさと逃げる事だな」

「いいえ、死んでもここは通さないわ。私に近づいたら、自爆してあなたたちも巻き添えにしてやる」


 自爆か。それはちょっとやっかいだな。


 だが、芽依ちゃんは構わずイリーナのスパイダーに歩み寄る。


「ち……近づくんじゃないわよ! メイ・モリタ」


 そうだ。近づくな! 戻れ!


 だが、芽依ちゃんはさらにイリーナへ近づく。


「自爆すると言っているのが、分からないの」

「自爆したければどうぞ」

「なに?」

「今ここで自爆しても、巻き込まれるのは私一人だけですけどいいのですか?」


 いや、芽依ちゃんだけでも良くないぞ!


「おまえ、死ぬのが怖くないのか?」

「イリーナさんは死ぬのが怖いのに、自爆するのですか?」

「ええっと……」

「イリーナさん。下手なハッタリはやめましょう。軍用兵器ならともかく、警察車両のスパイダーに自爆装置なんかありません」


 そうだったのか。芽依ちゃんは、ハッタリだと分かっていたのだな。


「た……確かに自爆装置はないけど……エネルギー源の超伝導バッテリー。あれを爆発させるわよ」

「どうやって?」

「え? ええっと……」


 確かに超伝導バッテリーがクエンチしたら爆発するけど、この様子だとイリーナはどうすれば爆発するか知らないようだな。


「ではクイズです。超伝導バッテリーに何をすれば爆発するか? 次の四つの中から選んで下さい。一番、磁石を近づける。二番、熱する。三番、爆発の呪文を唱える。四番、液体窒素をかける。さあ答えて下さい。時間は十秒」

「正解の報酬はなに?」

「あなたの言ったことが、ハッタリではないと認めて足止めに付き合って上げます」


 いや、すでに足止めに付き合わされていると思うが……

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