第649話 高周波スピア

「でやあああ!」


 抜刀した橋本晶が、緑のスパイダーに切りかかっていった。


 だが、九九式の加速機能を使っているにも関わらず、スパイダーの動きについていけない。


 スパイダーは素早く後退して橋本晶の刃を避けると同時に、ネットを撃ち出す。


「なんの! これしき!」


 橋本晶は愛刀を左右に素早くふるい、空中で広がって多いかぶさってくるネットを切り裂く。


 一方、カルルは……


「イリーナ。俺は海斗の相手をする。森田芽依は君が相手してくれ」

「エステス様。やはり、女は攻撃したくないのですか?」

「そうじゃなくて……女をネットで拘束したりしたら、また海斗に変態呼ばわりされそうなので……」


 ううむ……その作戦は読まれていたか……


 そんな二人に、芽依ちゃんがショットガンを向ける。


「死になさい! 消えなさい! くたばりなさい!」


 戦乙女ワルキューレにチェンジする呪文を叫びながら、芽依ちゃんはショットガンを乱射。


 しかし、素早く動き回るスパイダーに全く当たらない。


 弾を撃ち切ってマガジンを交換している隙に、青いスパイダーがネットを発射。


「きゃ!」


 芽依ちゃんの九九式が緑色のネットで覆われる。


「ほほほ! 良いざまね、メイ・モリタ。もう動く事もできないでしょう。九九式の怪力でも、パラアラミド繊維のネットは引き千切ちぎれないわよ」

「く……その口ぶり。私に何か恨みでも?」

「はあ? まさか忘れたんじゃないでしょうね?」

「ええっと……どちら様でしたっけ?」

「私はイリーナ……イリーナ・ミハルコフ」


 イリーナ……なんか聞いたような……


「イリーナさん? ああ! 先日、私が人じ……いやいや、保護した人でしたね」

「保護じゃなくて、人質でしょうが!」

「そうとも言いますね。あはは……」

「笑って誤魔化すな! とにかく、あの時の屈辱のお礼、たっぷりとさせてもらうわ」

「いえいえ、礼にはおよびません」

「遠慮する事ないわ」

「そうは言っても、スパイダー搭載の機銃では九九式の装甲を貫通できませんよ」

「そうね。でも、スパイダーのマニュピレーターは、いろんなオプションを使えるのよ」


 イリーナの機体は、蟹ハサミのようなマニュピレーターで一本の槍を掴んだ。 


 槍からヴィイイイン! という機械音が鳴り響く。


「これは貴女あなたに復讐するために、特別に用意した武器よ」 

「それは!」

「高周波スピア。刃先が超高速で振動してどんな硬い物でも貫ける武器。九九式の装甲だって、これの前には紙のような物よ。まあ、音が五月蠅うるさいのが難点だけど」

「……」

「安心して。一撃で殺したりはしないわ。急所は外して、何度もチクチクと刺してやるわよ」


 怖えええ! エラ並のサディスト! 


 と、この様子を僕はボーっと見ていたわけではない。


 カルルの放つネットを避けながら、ショットガンやワイヤーガンで攻撃を続けていたのだ。

 

 しかし、スパイダーの動きは素早く、僕の攻撃はさっぱり当たらない。


 橋本晶の方も、緑の機体との戦いで手一杯のようだ。


 このままでは芽依ちゃんが危ない。


 どうすれば……

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