第629話 助けるべきか? 見捨てるべきか?

 ここで、ジジイを助けたとしたら……


ジジイ『助けてくれてありがとう。今までわしが悪かった。もう二度と女の子に、エロい事はしない』


 などという事は、ありえんだろうな。


 では、助ける事を条件に、今後の態度を改めるように要求してみた場合……


僕『ジジイ。助けってやってもよいが、そのかわりちかえ! もう二度と、エロいことはしないと。さもなくば、このまま見捨てる』

ジジイ『誓う! なんでも誓うから、助けてくれ!』


 それで助けた後で、誓いを守るだろうか?


 いや、あのジジイの事だ。助けた後で……


ジジイ『エロいことはしないと約束したな。あれは嘘じゃ。きょほほほほほ!』

ミール『キャー!』芽依ちゃん『イヤー!』Pちゃん『あーれー!』


 という事になりそうだな。


 ではこのまま、ジジイを見捨てた場合はどうなるか?


 作戦が終了した後リトル東京へ行って、森田指令 (芽依ちゃんのお父さん)の前に出頭したときに言われるだろうな。


指令『北村君。なぜ、ルスラン・クラスノフ博士を救助しなかったのかね?』


 それに対して、僕はどう答えるべきか?


僕『助けようとしましたが、間に合いませんでした』


 九九式の記録を見られたら、一発で嘘がばれるな。


僕『助ける余力がありませんでした』


 いや、余力はある。残念ながら。


 では、ここは正直に……


僕『ウザいから見捨てました』


 などと言ったら、怒られるだろうな。


僕『博士の運動能力なら、自力でなんとかできると思いましたので。まさか、ルスラン・クラスノフ博士ともあろう方が、たかがヒツジやヤギの集団暴走スタンビートごときで殺られるなどとは思いもよりませんでした』


 これだな。あの人間離れした運動能力なら、マジでなんとかするかもしれない。


 いや、待てよ。


 このまま見捨てるのはいいが、自力で助かってしまったら、余計に面倒な事に……


「北村さん」


 芽依ちゃんの叫び声が、僕の思考を中断させた。


「お願い! 助けてあげて下さい!」


 え?


「芽依ちゃんは優しいなあ。あんなエロジジイを『助けて』だなんて……」

「違います。ルスラン・クラスノフ博士なんかどうでもいいですが、ユキちゃんを助けてあげて下さい」


 ユキちゃん!?


 そういえば、ジジイの横を子ヤギが逃げ回っていた。


「しかし、芽依ちゃん。あの子ヤギはレム神の……」

「分かっています。確かに、ユキちゃんはレム神のスパイです。でも、そんなの脳間通信を切ってあげれば、普通の子ヤギに戻れるはずです。だから、助けてあげて下さい! お願いします!」


 芽依ちゃんの頼みでは仕方ない。


 僕は通信機を操作して、テントウムシを操作しているミニPちゃんを呼び出した。


「Pちゃん。テントウムシのガルウィングを解放。子ヤギを中に入れてくれ」

『了解しました。ご主人様』

「子ヤギが飛び込んだら、すぐにガルウィングを閉じてくれ。くれぐれも余計なモノを入れないように」

『了解しました。余計なモノを入れないように、極力努力いたします。ご主人様』


 だが、ミニPちゃんの努力も虚しく、余計なモノジジイは子ヤギと一緒にテントウムシに飛び込んでしまった。


「やれやれ。命拾いできたわい」


 しぶといジジイだ。


 ガルウィングを閉じると、テントウムシは全力疾走で集団暴走スタンビートから逃げ出す。


 どうにか、逃れられたようだが、問題はこの後だな。


 第六層へ続く傾斜路入り口が目前に迫っていた。


 傾斜路入り口前には中央通路の他に、左右に延びる通路があり丁字路となっている。


 しかし、入り口前で待機しているドローンによると、左右の通路もヒツジやヤギで埋め尽くされていた。


 レム神はどうあっても、僕らを傾斜路に追い込みたいらしい。


 傾斜路の向こうには、まだドローンは送り込んでいないが、そこで敵が待ちかまえているのか?


「芽依ちゃん。傾斜路内に光学迷彩を解除したドローンを送り込んでくれ」

「光学迷彩を解除するのですか? 敵に見つかってしまいます」

「見つけさせるのが目的。ドローンで広い傾斜路内を探させるよりも、敵にドローンを発見させて攻撃させる方が敵の存在が早く分かる」

「分かりました」


 ほどなくして、傾斜路内に入り込んだドローンが銃撃を受けた。


 やはり、待ちかまえていたか……  

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