第593話 悪い虫

 姫の話はさらに続いた。


「ミーチャがわらわの元から消えてしばらく経ったある日、妾は神官からミーチャの消息を聞かされた。なんとミーチャは、偉大なるレム神から見守られていたというのじゃ」


 敬虔なレム教徒なら『見守られていた』と思うだろうが、実際はこうだ。



 見守られていた。 ×


    ↓訂正


 接続され、見張られていた。 ○



「レム神の声を聞くことができる神官には、ミーチャの消息が分かるというのじゃ。それによると、ミーチャはエラから逃げ出した後、敵であるカイト・キタムラ……つまり、おぬしのところへ逃げ込んだそうじゃな?」

「その通りですが……」

「その件については礼を言おう。よくぞミーチャを助けてくれた」

「いえ、人として当然の事ですので……」

「だが、その後が良くないぞ」

「え? 何がですか?」

「今は、おぬしがミーチャの保護者だろ」

「まあ、そうなりますが……」

「保護者なら、ミーチャに悪い虫が付かないように、もっと気を配ったらどうじゃ!」

「悪い虫? なんの事です?」

「キラ・ガルキナじゃ! あいつがミーチャに、色目を使っているのに気が付いていないのか!?」


 いや、気が付いていたけど……


「僕は、人の恋愛には口を出さない主義なので。それにミーチャとキラなら、お似合いだと思っていますから」

「お似合いだと!? そんな事は妾が認めぬ。ミーチャから『お姉様』と呼んでもらって良いのは妾だけじゃ!」


 ううん……困ったものだ。


「カイト殿」


 ん? キラ (分身体)が岩陰から出てきた。


「私が、直接お話をした方がよさそうだな」


 代わってくれるのか。


 正直、この姫様の相手をするのは疲れる。


「出てきたな! キラ・ガルキナ!」

「マルガリータ様。お久しぶりです」

「挨拶などどうでもいい! ミーチャをかけて妾と勝負しろ」

「お断りします」

「なに! なぜじゃ?」

「今のマルガリータ様は手足を拘束された虜囚の身。何かを要求できる立場ではありません」

「妾は、帝国の皇女であるぞ」

「それが何か?」

「なに?」

「今、あなたは帝国の権威が通用しないところにいるのですよ。ご存知ですか?」

「ぐぬぬ」

「それと、ミーチャは一人の人間です。誰かの所有物ではありません。賭けの対象にすべきではない」

「何を言う! 恋人を賭けて決闘をするというのは、よくある事ではないか」

「これは異なことを。マルガリータ様は、ミーチャを恋人として見ていたのですか?」

「え? いや、ミーチャは妾の弟……」

「それなら問題ないではないですか。恋人ならともかく『お姉様』なら何人いても……」

「黙れ! 何が『お姉様』じゃ! 弟の背中や二の腕に、偶然を装って乳を押し付けて誘惑する姉がどこにいる!」


 キラ、そういう事やっていたのか……


「な……何を言っているのですか……私がそんな破廉恥な事……」

「とぼけるな! ミーチャはレム様が常に見守っておられる。ミーチャが見聞きした事、肌で感じた事はすべてレム様に伝わっているのじゃ」

「しまったあ!」


 迂闊だったな。キラ……

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