第590話 マルガリータ姫

 起きあがった女性は、二十代半ばぐらいでブロンド髪に碧眼へきがんの美女。しかし、どこかで会ったような?


「ううう!」


 彼女は、痛そうに顔をしかめていた。


 見ると首筋に細長い傷がある。


 あそこに峰打ちを食らったようだ。


 痛いところに手を当てたいようだが、手足を縛られていてできないらしい。いましめを解いてやりたいが、やったらみんな怒るだろうな。


 芽依ちゃんが、鎮痛剤の入った高圧注射器を持って歩み寄る。


「じっとしていて下さい」

「な! なんだ!? おまえは? 私に何をする気だ?」

「治療をするだけですから、安心して下さい」

「治療だと!? 余計な事を! 敵の情けなど……」

「いらないのですか? その怪我だと、すごく痛いと思いますけど……」

「なんの! これしきの痛み……うぐぐぐ……」


 あ~あ、無理しちゃって……


 結局、彼女の意地も苦痛には勝てず、芽依ちゃんに泣いて治療を頼んだのだった。


 最初から、やせ我慢しなきゃいいのに……


「カイト殿」


 ん? キラ (分身体)に呼ばれて振り向いた。


 岩陰で手招きしている。 


 あ! 今、気がついたが、あの女性兵士の顔ってキラに似ている。どこかで会ったような気がしたのはそのせいか。


「キラ。あの女、君の親戚か何かか?」

「マルガリータ皇女だ」

「皇女? という事は、皇帝の娘」


 そういえば、最近忘れがちだけど、キラって皇帝の血筋だったのだよな。


「そうだ。ちなみに、彼女は第六皇女」

「なんで、そんな人がここに?」

「私が聞きたいぐらいだ。確かに武芸に優れている人だが、戦場に出て来るような人ではない。安全な帝都にいるべき人が、なぜこんなところに来ているのか」

「まあ、事情は後でミールに分身体を作ってもらって聞き出せばいいが、キラは顔を合わせたくないのか?」


 キラは首を縦にふった。


「特に仲が悪かった人ではないが、私を見たらきっと『裏切り者』となじるだろう」

「なるほど。無用なトラブルは避けた方がいいな。それなら、キラは隠れていてくれ」

「それと、もう一つあの人には問題があるのだが……」

「問題?」

「それは後で話す」

「……?」


 僕は岩陰にキラを残して、捕虜たちのところへ歩み寄った。

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