第588話 チャンバラ
入り口の制圧には、それほど時間はかからなかった。
まあ、当然だ。
地下施設入り口内に積み上げた
残りの熱源体は、橋本晶の言うとおり動物 (羊や山羊)で数を誤魔化していたのだ。
弾薬もほとんどなかったのか、ミールとキラの分身体相手に無駄撃ちをしていたら、一分もしない間に弾が尽きたのか銃撃が止んだ。
ただ、その後が少し面倒だった。
銃撃が止んだ後、ミールとキラには一度後方に下がってもらってから、降伏勧告をしてみた。だが、五人の兵士たちはそれを無視して、刀や槍を構えて地下施設から飛び出してきたのだ。
「隊長。ここは、私にお任せください」
橋本晶はそう言って日本刀を抜くと、僕たちが隠れていた岩陰から出て敵に向かって駆け出していく。
なんか、嬉しそうに見えるのだが……
「北村さん。撃ってはだめです」
援護しようと思ってショットガンを抜いた僕を、芽依ちゃんが制止した。
「なんで?」
「橋本さんって、チャンバラが好きなのですよ」
「え?」
「刀や槍を持った相手には、喜んでかかっていくのです。こういう時に迂闊に銃で援護なんかすると、機嫌を悪くしますから気を付けて下さい」
彼女も結構、面倒な性格をしているな……
橋本晶は、敵まで十数メートルのところで立ち止まり、正眼の構えで日本刀を構えた。
「リトル東京防衛隊、橋本晶三尉である。腕に覚えのある者は、かかってまいれ!」
いや、名乗りを上げている暇があったら攻撃しろよって、元寇の時代から言われているだろう。
まあ、こっちはロボットスーツを使っているのだから、その程度のハンデは付けてやっても問題ないけど……しかし、翻訳ディバイスを切ったままだという事に気がついていないみたいだな。
せっかく名乗りをあげたのに、向こうには伝わっていないぞ。
それに対して、敵の兵士たちも立ち止まると、兜を一斉に取って投げ捨てた。
兜の下から現れたのは……え? 女?
五人とも女性兵士ばかり。
それも若くて可愛い娘ばかり。
しかし、なんのつもりだ?
一人の女性兵士が前に進み出る。
「かかって来い! カイト・キタムラ」
あ! どうやら、ロボットスーツの中身を僕だと思っているらしい。
「どうした? かかってこないのか? 私たちが女であるからといって、遠慮することなどないぞ」
その背後で、別の女性兵士がニヤリと笑みを浮かべる。
「できまい。おまえは、女を殺せないのだからな」
なに!?
「な……なぜ、僕の弱点が分かったのだ?」
「北村さん。それ、ボケですか?」
芽依ちゃんの声が、なんだか冷たく聞こえるなあ。
「どうやら、敵は北村さんの動きを封じるために、女性兵士だけをここに残したようですね」
「心外だな。こんな事で、僕の動きを封じれるわけないだろう」
「じゃあ北村さん。彼女たちを撃てますか?」
う……無理かも……
その時になって、橋本晶は翻訳ディバイスを切っていた事に気がついたようだ。
「すまぬ。翻訳機を入れ忘れていたので、君たちが何を言ったのか聞こえなかった。もう一度言ってくれないか」
「面倒くさい男ね!」
「え? 男?」
ハスキーな声をしているから、男と思われているようだな。
そして女性兵士たちは、さきほどと同じような挑発を繰り返したのだが……
「どうやら、君たちは勘違いをしているな」
「どういう事よ?」
橋本晶は、再び日本刀を正眼に構えた。
「北村海斗は私の上司」
まだ、正式にそうなったわけじゃないけどね。
「私はリトル東京防衛隊、橋本晶三尉である。腕に覚えのある者は、かかってまいれ!」
「ゲッ! カイト・キタムラじゃないの!?」
「落ち着きなさい。向こうも銃を持っていないし、刀で戦う気よ。これなら勝算はあるわ」
「行くわよ! みんな」
五人の女性兵士たちは一斉にかかって行く。
そして……
「アクセレレーション!」
加速機能を発動させると、橋本晶は目にも止まらぬ早さで彼女たちの間を駆け抜けて行った。
数メートル離れたところで立ち止まると、背後を振り向きもしないで日本刀を鞘に収める。
「ふ! たわいもない」
彼女がそう言った直後、その背後では、動きを止めた五人の女性兵士たちが糸の切れた操り人形のように地面に倒れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます