第573話 触手?

「出てきたな! 北村海斗!」


 横をちらっと見ると、イワンが電磁砲レールキャノンで僕を狙っている。


 しかし、素早く動き回る目標に当てるのは難しいはず。


「アクセレレーション」


 加速機能を発動して、ジグザグに走りまわると、案の定、砲弾は僕から大きく外れて遠くの岩に当たって爆発した。


 続いて、イワンはバルカン砲を撃ってくる。


 どうやら、電磁砲レールキャノンは次弾装填に時間がかかるようだ。


 だから、電磁砲レールキャノンの装填が終わるまで、バルカン砲で牽制しているつもりだろう。


 だが、牽制と言っても、このバルカン砲はあなどれない。


 死ななくても、直撃食らったら痛そうだし……


 僕は、近くの岩陰に隠れた。


 岩陰から鏡を出して様子を見ると、電磁砲レールキャノンがこっちを指向している。


 装填が済んでいたようだな。


 一発撃ってから、次弾装填までのタイムラグは十五~二十秒ぐらいか。


 僕が岩陰から飛び出すのと、岩が砲弾を食らって砕け散るのと、ほぼ同時だった。


 これでしばらく、電磁砲レールキャノンは撃てないな。


 最寄りの対空砲陣地へと向かう。


「ブースト!」


 パンチ一発で、砲身が折れ曲がって使い物にならなくなった。


 すでに芽依ちゃんが一つ破壊しているはずだから、残りの対空砲は二門。


「卑怯者!」


 突然カルルがスピーカーでそんな事を叫んだのは、三つ目の対空砲を破壊したとき……


 何が卑怯なんだ?


 いや、カルルは僕ではなく、芽依ちゃんに向かって言ったみたいだが……


 あ! 芽依ちゃん、女性兵士を抱えながら低空飛行している。


 マジで人質にしたのか!


 芽依ちゃんは、じたばた暴れる人質を左腕で抱えたまま、最後に残った対空砲へ向かって行った。


 カルルはそれに対して、何もできないでいる。


「うりゃああ! ブースト!」


 対空砲はガラクタと化す。


 対空砲の守りが無くなった途端、上空で待機していた菊花隊が急降下してきた。


 イワンは、大急ぎで電磁砲レールキャノンを装甲の内側に収納しようとするが、ほぼ一瞬で収納できるバルカン砲とは違い、長い砲身を折りたたむ必要がある。

 

 このため、ドローンからの攻撃を受けてもすぐには収納できない。


 その弱点が分かっていたから、帝国軍はイワンが電磁砲レールキャノンを使っている間、菊花を寄せ付けまいと必死だったのだな。


 結局、収納は間に合わず、菊花隊の放ったミサイルによって電磁砲レールキャノンは破壊される。


 ゼロ部隊の攻撃時にレーザー砲が破壊されていたとしたら、イワンに残された攻撃手段はバルカン砲だけのはず。


 これで奴は、ただの転がる玉っころも同然となった。


「卑怯だぞ! 森田芽依!」

「カルル・エステスさん。何を言っています。戦場で卑怯もへったくりもありません」

「確かにそうだが……人質を取るなんて卑劣すぎる! そもそも、それは北村海斗の指示か?」

「そ……そうです」


 いや待て。僕はそんな指示は……まさか! さっきの『なるほど。人質にするのですね』『そうそう』のやりとりを拡大解釈したのか?


「嘘だ! 奴は女を人質に取るような卑劣な事はしない」


 ダサエフを人質に降伏勧告した事ならあるが、カルル的にそれはいいのか?


「大方、おまえが勝手にやっているのだろう」


 それに対して芽依ちゃんは、無言のまま右腕だけでロケットランチャーを構える。


 左腕で抱えている女性兵士が暴れているせいか、なかなか狙いが定まらない。


「森田芽依。一言だけ忠告しておく。おまえ、そんな卑劣な手を北村海斗の見ている前で使ったりしたら、奴の嫁候補から外れるぞ」


 え? なに言っているんだ? こいつ……


「や……やだなあ、何言っているのですか? 私が人質を取るなんて卑怯な事を、するわけないじゃないですか。あはは」


 と言って、人質を手放した。 


「私はただ、イリーナさんを保護していただけですよ。さあ、解放しますので、どこへでも行って下さい」


 いや、今更イリーナを手放しても……


すきあり!」


 その時、イワンの装甲に丸い穴が開き、何かが飛び出してきた。


 触手?


 ウネウネと動く細長い触手のような物が、芽依ちゃんの機体にからみつく。


 これは!? 

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