第555話 フライング・トラクターを撃破せよ

 フーファイターの爆発によって発生した津波が、砂州さすを乗り越えベイス湾まで入り込んだ。


 湾内に停泊中の帝国艦隊艦艇が激しくれる。


 上空にいたドローンも、墜落は免れたものの強風に翻弄ほんろうされた。


 ナージャたちがいる村はかなり内陸にあるから影響はないと思うが、前線基地は被害を受けたかもしれない。


 戦闘で反物質を消耗させたが、それでもこれだけのエネルギーが残っていたとは……


 もし、満タンの状態で落としていたらと思うとぞっとする。


 次のフーファイターが出てきても、落としてはダメだ。どれだけの損害が出るか分からない。


 もっとも、敵のビームを跳ね返して攻撃するなんて戦法は、もう通用しないだろうけど。


 次にフーファイターが上がってきたら、位相共役鏡フェーズ・コンジュゲーション・ミラーを警戒してレーザーは使わず、重力制御だけで攻撃してくるだろう。


 だが、こちらの目的は達成したようだ。


 《海龍》のPちゃんから連絡が入る。


『ご主人様。ベイス島のナージャさんが、フーファイターの誘導波発信源を突き止めました。データを送ります』


 発信源は、ベイス島北岸にある小さな湖。


 水蒸気爆発でできたクレーターに、水が溜まってできた湖のようだ。


「芽依ちゃん。行くよ」

「はい」

「レイホー。頼む」

「アイサー! 《水龍》急速浮上」


 エレベーターが上昇するような感覚が伝わってくる。


 今、《水龍》は海底を離れ、海面へ向かっているのだ。


 再びPちゃんから連絡が入ったのはその時……


『ご主人様。二機目のフーファイターが現れました。これより戦闘に入ります』

「なるべく、戦闘を引き延ばしてくれ。その間に矢納さんを叩く」

『了解しました』


 《水龍》が海面に出たのはその時。


「ハッチオープン! おにいさん、芽依ちゃん。出撃して」


 僕と芽依ちゃんの九九式が海上に飛び出す。


 レーダーを警戒して海面スレスレを進んだ。


 作戦中は電波通信を止めているので、《海龍》の戦闘状況が分からないのが辛い。


 ドローンが全滅して《海龍》本体が攻撃されていないか? フライング・トラクターがさっきの位置に、今でもいるかどうか?


 いろんな不安が脳裏を過ぎる。


「北村さん。まもなくです」


 芽依ちゃんの声で我に返った。


 目の前に岸壁がある。


 さっきまで、その向こうの湖から誘導波が発信されていた。


 今も発信されているか、《水龍》から情報が送られてこない今では確認のしようがない。


 はたして岸壁の向こうに、フライング・トラクターは……


 いた!


 湖面上、数メートルにトラクターが浮遊している。

  

 あの中で矢納さんがフーファイターを操っているのか。


「北村さん! レーダー波です!」


 当然だ。こっちが敵を見つけたという事は、むこうもこっちを見つけたはず。


 早く攻撃しないと、奇襲効果を生かせない。


 僕と芽依ちゃんはロケットランチャーを構えた。


ー!」


 ランチャーから放たれた91式地対空誘導弾は、まっすぐトラクターへ向かっていく。


 フライング・トラクターはそれに対して、急上昇して避けようとするがミサイルもそれを追って上昇する。


 だが、逃げ切れなかった。


 トラクターは爆炎に包まれ、無数の破片を湖面にまき散らす。


 もう、通信をしても平気だな。


「こちら海斗。《水龍》応答せよ」


 レイホーの声で返事が返ってくる。


『こちら《水龍》。どうぞ』

「フライング・トラクターを撃破した。フーファイターの動きは?」

『《海龍》からの情報伝えるね。フーファイターは活動を停止。自立モードで、ベイス島に戻っていったね』

「《海龍》の被害状況は?」

『飛行船二機が撃墜されただけね。後はみんな無事』

「了解。これより、帰還する」

『待っているね』


 通信機を切ったその時、芽依ちゃんが叫ぶ。


「北村さん! あれを!」


 ん?


 芽依ちゃんの指さす先に視線を向けた。


 湖面上をモーターボートが航行している。


 フライング・トラクターにばかりに気を取られて気がつかなかったけど……


「芽依ちゃん。臨検しよう。どう見ても怪しい」

「はい」


 一応、《水龍》の方には怪しい船を発見した旨を伝えてから、僕たちはモーターボートへと向かった。

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