第553話 フーファイターを落とせ

 アーニャ、マー 美鈴メイリン、そしてPちゃんの三人が操縦する三機のジェットドローン菊花が、ベイス島へ突入していく映像が、発令所のメインモニターに映し出されていた。


 この映像は、ジェットドローンの後方に配置されている飛行船ドローンが撮影したもの。


 ほどなくして、フーファイターが迎撃に上がってくる。


 同時に、矢納さんから通信が入った。


『北村! 学習しない野郎だな。ジェットドローンなんて何機来ようが、フーファイターの敵じゃねえんだよ』


 アーニャが返信を返す。


『はたしてそうかしら』

『む? その声、北村じゃねえな。何者だ?』

『私は、アーニャ・マレンコフ。あなたごときの相手、私で十分よ』

『てめえか。三十年前に、レムから逃げ出したという女は』

『二十年前よ』


 こんなところでもサバ読むのね……


『なんでもいい! どこからでも、かかってきやがれ!』

『ではお言葉に甘えて』


 菊花から、次々とミサイルを放っていく。

 

 ただし、一斉射撃ではなく、一発ずつ間隔をおいて発射していた。


 兵法では、戦力の逐次投入は大いなる過失と言われるが、ミサイルを一斉に撃ってもフーファイターを落とせない事は前回の戦いで分かっている。


 ミサイルを小出しで撃っているのは、フーファイターを消耗させるのが目的。


 あらゆる方向から飛んでくるミサイルを、フーファイターは重力制御とレーザーで迎撃していた。


『ちまちま撃っていないで、まとめてかかって来い』

『これが私のやり方よ』

『クソったれ!』


 ミサイルを撃ち切った三機の菊花は、フーファイターとは一定の距離を保ったまま対峙していた。


『どうした? もう終わりか?』

『終わるのではないわ。始まるのよ』

『なに!?』


 その直後、後方で控えていた六機の飛行船ドローンがミサイルを放ってきたのだ。


 飛行船ドローンは、速度は遅いが積載量が大きい。


 ドローンから釣り下げられたミサイルポッドには、十六発のミサイルが収納されている。そのポッドから、次々とミサイルを発射していた。


『クソ! のろまの飛行船など、すぐに落としてやるぜ』


 フーファイターは加速して、飛行船ドローンの方へ向かう。ミサイルを撃破しながら……


 そのタイミングで、今まで待機していた三機の菊花が一斉に襲いかかってきた。


『なに!?』


 その時には撃破したミサイルが、大量の金属箔をまき散らしてフーファイターの後方にレーザー攪乱幕を形成していた。


 三機の菊花は、攪乱膜の中を進んでいく。


「クソ」


 フーファイターは、ミサイルの迎撃をレーザーに切り替え、重力制御を菊花攻撃に回した。


 Pちゃんの菊花が潮汐作用でバラバラになる。


 その間に馬美鈴の菊花が、バルカン砲の射程内に飛び込んだ。


 その菊花もすぐに重力制御でバラバラになるが、その前に放った砲弾の一発が、フーファイターの機体を近接VT信管の範囲内に捕らえる。


 フーファイターは爆炎に包まれた。


 やったか?


 いや、無理だった。


 爆炎の中からフーファイターが飛び出してくる。


 機体に無数の破片が刺さっているから、まったく無傷という訳ではないが、飛行には支障ないようだ。


 だが、アーニャの操縦する菊花が、まだ攪乱膜の中を飛んでいる。


『クソ! 先に飛行船を片付けてやる』


 飛行船ドローンの一機が、レーザーを受けて爆発。


 その直後、フーファイターの機体の一部が吹っ飛んだ。


 そのまま黒煙を吐きながら、墜落していく。


 海面付近で、フーファイターは大爆発した。


 その様子を、発令所のモニターで見ていたミーチャが振り向く。


「すごい! フーファイターをやっつけちゃった。でも、どうやって?」


 ふ! こんなこともあろうかと、密かに開発していた……と言いたいところだが、実際にこれを用意したのはアーニャで、僕は仕組みも分かっていない。


「飛行船ドローンに、位相共役鏡フェーズ・コンジュゲーション・ミラーという装置を取り付けてあったんだ」

「なんですか? それ」

「仕組みは僕もよく分からんが、アーニャが言うにはレーザーを元来た方向へ正確に跳ね返す装置だそうだ」

「つまり、レーザーを鏡で跳ね返したと?」

「まあ、簡単に言うならそんな事だな」


 アーニャから最初にその話を聞いた時は、コーナーキューブ(アポロ宇宙船が月面に設置した、レーザーを使って月と地球の距離を測る装置)のような装置かと思っていたが、調べるとまるっ切り違うものだった。

 

 一応、位相共役鏡の原理は僕の生まれる前からあったらしいが、兵器として実用化されたのはアーニャの時代。

 

 僕の時代ではまだ研究段階だったようだ。


「すべての飛行船ドローンには、この装置が装備してあったんだ。だから、フーファイターが飛行船ドローンにレーザーを撃った時点で勝負はついたんだよ。もっとも、レーザーを受けた飛行船ドローンは破壊されてしまうけどね。破壊される前の僅かの時間に跳ね返したレーザーで、フーファイターと刺し違えたのだよ」


 これがアーニャの用意したフーファイター対策だったわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る