第541話 ギルティ

 全員ぶっ殺すとは言ったものの、それは無理だったようだ。


 ダニに案内された部屋は、どれも客の姿はすでに無い。


 ただ、客の相手をさせられていた女の子たちが残されているだけ。


 男の子も若干いた。


 まあ、客がいないのも当然だな。


 これだけ騒ぎになっているのに、気が付かないで残っていた奴の方がバカというもの。


 普通なら危険に気が付いて、さっさと逃げるだろう。


 とりあえず、残されていた子供たちに服を着せながら僕は先に進んだ。


 子供たちの何人かは、僕の後ろから付いてくる。


 だから、ますます遅くなる。


 とりあえず、廃工場内には敵はいないみたいだし、無線でミールたちに応援を頼んでおいた。


 まあ、敵も多少は残っているかもしれないが、こっちにはエラもキラもいるから大して問題にならないだろう。


「この部屋で最後だ」


 ダニに案内された最後の部屋の戸に手をかけた。


 ここもどうせ空振りだろう。とりあえず、残された子供だけでも助けて、ミールたちと合流しよう。


 と、思ったらここだけ客が一人残っていた。


 でっぷりと太った帝国人の中年男だ。


 僕は早速部屋へ入り、男の胸ぐらを掴んだ。

 

「まて! 俺が何をしたと言うのだ?」


 男は、自分がなぜこんな目にっているのか理解していないようだ。


 せめて、自分の罪だけは分からせてやろう。


 僕は部屋の中の、ある場所を指さした。


 そこでは、全裸にされた幼い帝国人の少女が泣いている。


「一応聞くが、この女の子を泣かせたのはおまえだな?」

「そうだが……泣かせてはいけなかったのか? 分かった。次からは、優しくするから……」


 次から? 何を言っている。おまえに次などない。


 だが、これだけは聞いておこう。


「あの女の子が町から拉致され、無理矢理男の相手をさせられていることは知っているな?」

「知っているが、それがどうした?」


 有罪ギルティ


「ブースト」


 ブーストパンチを食らった男は、そのまま壁まで吹っ飛んでいく。


「グハ!」


 男は血反吐を吐いて床に倒れ、そのまま動かなくなった。


 泣いている女の子に服を着せてから、僕は倒れている男を指さしてダニに質問した。


「一応聞くが、こいつの父は何者だ?」

「アーテミスの防衛大臣」


 なるほど。

 

 アーテミスの町には、自警団とは別に正規軍もあるはず。


 それにも関わらず、なぜこの盗賊団が放置されていたのか、疑問に思っていたが……


「こいつに女の子を抱かせていたのは、金のためだけじゃないな。こいつの親の力を使って、アーテミス軍が討伐に来るのを、止めさせていたのだろう?」


 ダニは無言で頷く。


 やはりそうか。


 おそらくこいつだけじゃあるまい。他にも有力者の子弟に女の子を抱かせて、アーテミスの軍隊を骨抜きにしていたのだろう。


「今日来ていた客は、こいつで最後と言ったな?」

「そうだ。他は逃げたのだろう」

「顧客名簿はあるか?」

「そんな物はない」

「それは残念だな。顧客名簿があれば、おまえを生かしておいてやるつもりだったのだが……」

「ああ! 待て! そう言えば、作ってあったな」


 最初から、素直に出せばいいものを……


 顧客名簿を手に入れた僕は、そのデータを《海龍》へ送った。


「そんな事をして、どうする?」

「知れたこと。大量コピーしてアーテミスの町にばらまく」


 その結果、政治的混乱が起きるかもしれない。


 しかし、うみは早めに出した方がいい。


 Pちゃんから連絡があったのは、廃工場から出てミールたちと合流した時の事。


『ご主人様。廃工場から逃げ出した盗賊たちが、一ヶ所に集結しつつあります』

「どの辺りに?」

『アーテミス川の対岸にある丘です。今、画像データを送ります』


 なるほど、対岸にもう一つ拠点があったわけか。


 画像を拡大してみると、丘全体がとりでのようになっていた。


 そこに盗賊たちが入っていくのが見える。


 どうやら、あっちが本丸のようだな。


「Pちゃん。あの丘に蛇型ドローンを送り込んでくれ」

『了解しました』 


 通信を切って、ダニの方に顔を向けた。

 

「対岸の丘にも、拠点があったようだな」

「な……なんの事かな?」


 あくまでもとぼけるのか。


 アーテミスの自警団が到着したのはその時だった。

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