第526話 アーニャからの呼び出し

 キラから預かった荷物を《海龍》に届けたとき、ロボットスーツの通信機から呼び出し音が鳴った。


 アーニャから? なんだろう?


 通信はPちゃんに送ることになっていたはずなのに、なぜロボットスーツの通信機に?


 そもそも、上陸組に僕がロボットスーツでアーテミスに行くことは話していなかったはず。


「アーニャさん。どうしました?」

『この通信に出たという事は、今ロボットスーツは活動中という事よね?』

「そうですけど……」


 そもそも、着脱装置の中に収まっていたら、この通信には誰も出ないのに……


「なぜ、活動中と分かったのです?」

『なぜもへったくれも、ロボットスーツらしき物がアーテミス上空を飛んでいたのを見かけたからだけど』


 そうでした。気付かれていないと、考える方が間違っていた。


『金色のロボットスーツなら君だと分かったけど、何かコートのような物を着ていたから、小淵のロボットスーツの可能性もあるので確認しようと思ったのよ』

「すみません。荷物があったら、船に運んでやろうと思って気を利かしたのだけど、心配かけちゃいましたね」

『ああ、別に謝らなくてもいいわよ。それより、荷物を運んでくれるの? それなら、私もお願いしていいかしら?』

「いいですよ」


 ていうか、好都合。


『じゃあ、今から大きな買い物をするから、この電波を辿たどって来てくれない』

「分かりました」

『できれば、誰にも気付かれないように』


 気付かれちゃマズい事でも……まさか?


 アーニャもスパイがいることに気が付いて、荷物持ちを口実に僕を呼び出し、その事を話そうというのか?


「アーニャさん。五分ほどで到着します。待っていて下さい」


 通信を切って、僕は《海龍》を飛び立った。


 電波を辿って着いたのは、屋根がなくなっている廃屋。そこにいたのはマー 美玲メイリンだけで、アーニャの姿がない。


 しかし、なぜ、こんなところへ?


 いや、なぜもへったくりもないな。


「人目に付くような場所に降りられないでしょ。そんな格好じゃ」


 馬艦長、気を利かせてくれたのですね。


「この町に来たら、君はすっかり有名人になっていたからね。おおかたロボットスーツで降りて、大騒ぎにでもなったのでしょ。だから、そんなコートを着ているのじゃないの?」


 おっしゃる通りで……


 アーニャが廃屋に入って来たのはその時。


「あら? 北村君もう来ていたの。早いわね」


 アーニャは、背後を振り向いて声をかけた。


「こっちへ運んで」

「へい。お客さん」


 入ってきたのは、蜥蜴とかげ型ヒューマノイドのプシダー族が一人。

 

 大きな木箱を乗せた台車を押してきた。


「アーニャさん。荷物というのはこれですか?」

「そうよ」

「木箱の中身は?」


 アーニャは木箱の蓋を開けた。


 中に入っていたのは樽のようだが……


「なぜ、樽をわざわざ木箱の中に?」

「Pちゃんに見つかったら五月蠅うるさいでしょ」


 Pちゃんに見つかったら五月蠅うるさい? という事は、この樽の中身は……


「お酒よ」


 おお! これだけあれば、カルカに戻るまでもつ。


「誰にも気付かれないようにって、こういう事でしたか?」

「そうよ」

「なんだ、スパイじゃ……」

「え?」


 おおっと! やべえ!


「いや、酸っぱい物も欲しいなあと」

「酸っぱいツマミが好みなの? 分かったわ。探しておくわね」


 なんとか、誤魔化せた。


「《海龍》についたら、Pちゃんには中身は知らないとでも言っておいて倉庫に運び込んでね。今夜はみんなが寝静まったら、甲板で酒盛りよ」


 横で馬 美玲が苦笑する。


「二人とも、ほどほどにね」

「分かっているわよ」


 僕は箱を持ち上げた。


「それじゃあ、これは倉庫に……」


 おっと、その前に言うべき事が……


「他に運ぶ物があったら、チュール広場に行って下さい。そこにミクがいるはずだから」

「え? ミクちゃんがなんで?」

「いや、だからチュール広場でミクの荷物を預かる事になっているので、ミクに荷物を預けてもらえば一緒に」

「何言っているの? そんな目立つところに降りるより、ミクちゃんもここへ呼んだ方がいいでしょ」

「そうでした」


 不自然だったけど、何とか目的達成。


 もしも、この二人が接続されているなら、今頃……


レム「小娘はチュール広場に 以下略」

部下たち「はは。レム様。以下略」


 という事になっているはず。


「そうそう北村君。荷物はこれだけじゃないわ」

「アーニャさん。まだあるのですか?」

「十分ほどしたら、もう一つ樽が届くから、それも運んでおいてね。私たちは他へ行くから」

「分かりました」


 僕は木箱を持って飛び立つ。


 十分ほどして、廃屋に戻るとすでに箱は届いていた。


 アーニャと馬美玲の姿はなかったが、プシダー族の店員が荷物の番をしてくれている。


 しかし、アーニャはもう一つと言っていたけど、箱は二つあるな。


 まあ、いいか。多い分には……


「お客さん。一人で二つも運べますか?」

「大丈夫だよ。これはチップね」


 店員に銀貨五枚を握らせた。プシダー族の反地球人感情はかなり大きいと聞いていたので、このぐらいしておいた方がいいだろう。


「毎度あり」


 プシダー族の店員を残して、僕は《海龍》へ戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る