第370話 敵中突破

 水中活動限界のタイムリミットが三分を切った。


『ここは、私が囮になって……』

「ダメだ!」

『でも……』

「芽依ちゃん。相手は地対空誘導弾。それなら空を飛ばないで、地上から行けばいい」

『え? 確かにそうですけど……』

「水に潜る前の映像から、ミサイルの発射地点はだいたい分かった。さっき、アルダーノフの督戦隊がいたあたりだ。そこへめがけて全力で走るんだ」

『分かりました。でも、その場合、対戦車ミサイルを使ってくるかも……』

「大丈夫。地上から行けば、敵は味方の兵士が邪魔になって撃てない。そもそも、リトル東京から供与された武器はそんなに数はないはずだ。もし、地対空誘導弾がふんだんにあったら、ドローン相手に使っているはず」


 僕たちは、水中から運河の岸に近づいた。


 川岸はほぼ垂直の石垣。


 水面から顔を出すと、水面から川岸までの高さは一メートルほど……


「芽依ちゃん。岸に上がったら、加速機能アクセレレーションで一気に奥へ行こう」

「はい」


 三つ数えて、僕たちは一気に飛び上がった。


「うわわわ!」「出たあ!」


 岸辺で待ちかまえていた兵士達が、突然水面から飛び出してきた僕たちに驚いて腰を抜かしている。


 銃撃してきた者もいるが、そんなのにはかまわずに……


「「アクセレレーション」」


 僕と芽依ちゃんは、ほぼ同時に加速コマンドを叫んだ。


 ショットガンは抜かないで、敵兵に埋め尽くされた中を真っ直ぐと突き進む。兵士達を体当たりではね飛ばしながら……


 敵兵は味方に当たるのを恐れて、ミサイルはおろか銃撃もできない。


 ただ混乱して逃げまどうだけ。


 五百メートルほど走った時、芽依ちゃんから通信が入った。


『北村さん。ミサイルランチャーを持っていた兵士を捕まえました。殺しますか?』

「尋問したい。なるべく生かしておいてほしい」

『分かりました』


 電波を頼りに芽依ちゃんのいる方向へ向かった。


 程なくして、桜色のロボットスーツが一人の若い男を羽交い締めにしている現場に遭遇する。


 その周囲を敵の兵士達が遠巻きにしていた。


 芽依ちゃんの足下には、ロケットランチャーが落ちている。

 

 スティンガーミサイルに似ているが少し違うな。


 遠巻きにしている兵士達をかき分け、僕は芽依ちゃんの傍に行った。


 落ちているロケットランチャーを拾い上げて、羽交い締めにされている男に突きつける。


「91式地対空誘導弾。リトル東京から供与された物か?」

「そうだ」


 男は意外とあっさり答えた。


「おまえ達裏切り者に出会ったら、こいつで葬ってくれと渡されたのさ」


 裏切り者? やれやれ……こいつも僕たちを矢部と古淵だと思っているようだな……


「特にヤベの奴には、容赦するなと言われている」


 言ったのは芽衣ちゃんのお父さんだろうな。芽衣ちゃんへのセクハラで、矢部はかなりの怒りを買っていたようだ。


「という事は、君自身がリトル東京に行ったのか?」

「そうさ。俺はフランツ・アレクセイエフ。この名前に聞き憶えはないか?」


 そう言われても、僕はまだリトル東京に行ったことがない。


 僕は首を横にふってから質問を続けた。


「ではアレクセイエフ。君はドローン相手にはこれを使わなかったな。ロボットスーツが出てくるまでとって置いたのか?」

「だったら、どうした? 殺すならさっさと殺せ」

「できれば、僕は君達と和平を結びたい」

「なんだと? できるわけないだろ?」

「君はまず思い違いをしている。僕たちは矢部と古淵ではない」

「なに?」

「それと、帝国軍は昨夜のうちに逃げ出した」


 さっき砲兵陣地でした説明をもう一度する羽目になった。

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