第358話 督戦隊

 ドローンからの映像だと、橋を挟んで銃撃戦になっているが今のところ味方に死傷者は出ていない。


 だが、あまり長くはもたないだろう。


「Pちゃん。ドローンから爆撃を。僕たちが到着するまで、西の橋をもたせて」

「はい。ご主人様」

「芽依ちゃん。行くよ」

「はい。北村さん」


 僕と芽依ちゃんは役所から出て《海龍》へ向かう。


「なあ、芽依ちゃん」


 道すがら、僕は芽依ちゃんに話しかけた。


「前の僕は、ロボットスーツ隊の隊長だったそうだけど、ちゃんとリーダーを努めていたのかい?」

「はい。最高の隊長でした」 


 本当かな?


「でも、北村さん。お酒を飲んではよく『誰かに隊長を代わってほしい』とこぼしていました」


 そうだろうな……


「結構ストレスも貯まっていたみたいで、そのせいで酒量も増えて健康を害して……」


 それで、僕が酒を飲もうとすると、Pちゃんに止めさせるようにプログラムしたのか。

 

「装着」「装着」


 ロボットスーツを纏った僕達は、西の橋へ向かって飛んだ。


 途中、ミクから通信が入る。


『お兄ちゃん。デポーラの陣地潰したけど、エラがどこにもいないよ』


 なに?


『とりあえず、ミールちゃんがデポーラを生け捕りにしたけど、エラの居場所を白状しないんだよ』

「分かった。じゃあデポーラは役所に連行して、例の方法で尋問するようにミールに伝えて」

『うん。分かった。居場所が分かったら、あたしはそっちを叩きに行けばいいのね?』

「そうだ。頼んだよ」


 通信を切ると、橋は目に前にあった。


 押し寄せる軍団を、五機のジェットドローンが爆撃で食い止めている。


 橋のこちら側では、バリケードが築かれていてロータス兵が守っていた。


「芽依ちゃん。橋の上でホバリングを」

「はい」


 通信機でPちゃんを呼び出した。


「Pちゃん。橋に着いた。ドローンは一度引き上げて補給して」

『了解しました』


 ドローンが引き上げいく。


 それを好機と判断したのか軍団が殺到するが、その行く手を阻むように芽依ちゃんが降り立った。


「死になさい! 消えなさい! くたばりなさい!」


 戦乙女ワルキューレにチェンジする呪文を叫びながら、芽依ちゃんはAA12コンバットショットガンを乱射して死体の山を製造していく。


 マガジンが空になったタイミングで僕が交代して撃ちまくった。

 

 その間に芽依ちゃんがマガジンを交換。僕が撃ち終わると芽依ちゃんと銃撃を交代。


 だが、いくら撃っても敵は死体を乗り越えて押し寄せてくる。


 こいつら、死ぬのが怖くないのか?


 Pちゃんから通信が入った。


『ご主人様。敵部隊の後方で、逃げる兵士を射殺している部隊がいます』


 督戦隊とくせんたい (後方から自軍を監視して、無断で敵前逃亡する兵士を射殺する部隊)なんか用意していたのか。だから、誰も逃げないんだな。


「Pちゃん。ドローンの補給はどのくらいで終わる?」

『十分かかります』


 待っていられないな。


 通信を切って芽依ちゃんの方を向いた。


「芽依ちゃん。しばらくここを頼めるかい? 僕は督戦隊を潰しに行く」

「任せて下さい。命に代えても、ここは一人も通しません」

「いや、命に代えちゃ駄目だから……いざとなったら、逃げて」

「はい。わっかりました」


 大丈夫かな? 


「イナーシャルコントロール 0G」


 重力を打ち消して、僕は宙に浮かび上がった。


「イナーシャルコントロール プロモーション二G」


 敵兵の頭上を飛び越えていく。


 しばらくして、十名ほどの兵士が一列に並んでフリントロック銃を構えている現場に出くわした。


 彼らの前には、射殺された兵士の死体が何人も転がっている。


 どうやら、この兵士たちが督戦隊のようだ。


 督戦隊の後ろでは、熊のような帝国人の大男が叫んでいる。


「進め! てめーら逃げるんじゃねえぞ! 逃げる奴は俺がぶっ殺す」


 この熊男が指揮官か。


「橋を越えれば、そこはロータスだ! ロータスに入ればお宝は思いのまま。デポーラのクソアマに、びた一文渡すんじゃねえぞ!」


 なるほど。こいつらは、日頃デポーラと張り合っている盗賊団のようだな。


 僕は熊男の眼前に降りた。


「なんだ! てめえは!」


 驚く熊男に僕は語りかける。


「心配しなくても、デポーラが君を出し抜いてロータスの宝に手を触れるような事はないから安心してくれ」

「そ……そうなのか?」

「なぜなら、デポーラはすでに捕らえられてロータス役場に連行されたからだ」

「なに!? どういう事だ?」

「カルカとリトル東京が、ロータスの町を守る事になったのさ」

「なに?」

「そんなところへ攻め込んでも全滅するだけだ。ここは一つ撤退してくれないか?」

「ふざけるな! 誰が撤退なんか」

「このままでは、みんな死ぬよ」


 すると熊男はニヤっと凶悪な笑みを浮かべ、大剣を振り上げた。


「ふん。どうしても撤退させたかったら、この俺、ヴィクトル・アルダーノフと勝負して勝つことだな」

「そうしたら、撤退してくれるのか?」

「おおよ! 撤退させたかったら、タイマンで俺をぶちのめして……」

「ブースト!」


 大剣を振り下ろす間もなく、ヴィクトル・アルダーノフの巨体は、後方へ吹っ飛んでいき背中から大木にぶつかる。

 

「ちょ……ま……」

「ブースト! ブースト! ブースト!」


 言われた通り、ぶちのめしたけどこれでいいのかな?


「い……命ばかりはお助けを……」


 さっきまでの威勢はどこ吹く風。急所を外したブーストパンチ数発でズタボロになったヴィクトル・アルダーノフは、ピクピクと痙攣けいれんしながら怯えるような目で僕に懇願こんがんした。


「では、撤退してくれるかな?」

「よ……喜んで撤退させていただきます」


 西の橋に押し寄せていた兵隊たちは、波が引くように引き上げていった。

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