第320話 緊急事態

「緊急事態を報告する時は、ご主人様の目をまっすぐ見る必要がありますので……」


 いや……そんな必要ないだろ。


「緊急事態にかこつけて、あたしとカイトさんの愛を妨害したいのでしょう」

「そんな事はありません」

「嘘おっしゃい!」

「ミールさん。ロボットは嘘を付きません」

「Pちゃんは嘘を付けると、芽衣さんから聞きました」

「ちちい。芽衣様……余計な事を……」


 ええ! 切がない。


「それでPちゃん。緊急事態って、何があったの?」

「はい。偵察用ドローンが落とされました」

「ドローンが……まずったな。成瀬真須美に気づかれたかな? 僕らがロータスへ向かっている事に……」

「いえ、その心配はありせん。ドローンが落とされたのは、ロータスの十キロ手前です」

「十キロ? じゃあ、ロータスには到着していないうちに落とされたの?」

「はい。ロータスの東十キロ付近の荒野です」

「そんなところで? ドローンを落とした武器は何?」

「武器の特定はできていませんが、推測はできます」

「なんだって?」

「ドローンが落とされる直前に、ドローンのセンサーが一万度の高温を感知しました」

「ブッ!」


 思わず、お茶を吹き出してしまった。


「わあ! きたなーい」


 ミーチャの顔にモロに掛かってしまう。


 すまん。


「ミーチャ。大丈夫か? 今、拭いてあげるからな」


 キラが駆け寄って、ミーチャの顔をハンカチで拭った。


 ここぞとばかりに、優しいお姉さんアピールしたいのだな。


 しかし、一万度の高温って、まさか!?


「で……Pちゃんの推測は?」


 いや、聞くまでもない事だが……


「ご主人様。その付近に、エラ・アレンスキーがいるものと推測できます」


 まだ四人残っていたからな。その中の一人だろう。


「ひい! 向こうに、アレンスキー大尉がいるのですか!」


 エラの名前を聞いて、ミーチャの顔が恐怖に引きつっていた。この子は、僕なんかより、よっぽど酷いトラウマを抱えているからな。 


「安心しろ。ミーチャ。エラなんか来ても、お姉さんが守ってあげるから」


 怯えているミーチャを、キラが優しく抱きしめていた。だが、その顔はどっか嬉しそうだ。 


「ご主人様。追加のドローンを送りますか? その場合は、別ルートを使う事をお勧めします」


 ううん……どうするか? 今回送り出したのは、飛行船とステルス。飛行船タイプでステルスを吊り下げてロータスの近くまで行って、そこからステルスを切り離して、ロータス市内や港を偵察するはずだった。 


 ロータスへ向かうコースも、地形を考慮してロータスからのレーダーに捕まらないコースを選んだのだ。


 コースをおいそれと変える事はできない。


 では、レーダーには映らないステルスだけで行かせるかとなると、航続距離が足りない。


 さて、どうするか?


 バサ! バサ! バサ!


 考え込んでいる時、突然頭上から大きな羽音が聞こえてきた。上を見上げると、三頭のベジドラゴンの子供が宙を舞っている。

 その一頭には、頭に赤いリボンが付いていた。


「カイト! ドコヘ行クノ?」


 エシャー! いいところへ来てくれた。

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