第271話 病院

 カルカシェルターに戻った僕達は、ちょっとした歓迎を受けた。


 シェルター内で手の空いている人達が地下の港に集まり《水龍》を出迎えてくれたのだ。


 人数にして三十人ほど……中には病院から抜け出してきた怪我人まで……


 その群衆をかき分けて、楊 美雨が出てくる。


「レイホー! 急いで来て頂戴」


 レイホーが司令塔から飛び出して来る。


「どうしたね? お母さん」

「お父さんが、意識を取り戻したの」

「ええ!」


 楊 美雨は、僕達の方を向く。


「綾小路未来さん。あなたにも来て欲しいの」

「え? あたし」


 ミクはフラフラとした足取りでやってくる。


 しょうがない。


「きゃっ!」


 ミクをお姫様抱っこで抱え上げた。


「ミクは船酔いで調子悪いので、僕が抱えていきますが、いいですか?」

「いいわ。北村さんにも、来てもらった方がいいかもしれない」


 僕達が案内されたのは、病院だった。


「北村さんには、感謝しています。プリンターを持ってきてくれて」


 歩きながら楊 美雨が話していた。


「おかげで、夫にナノ治療を受けさせる事ができました。でも、少し遅かったみたいです」

「え? でも意識が戻ったのでは?」

「意識は戻りましたが、身体はかなり病魔に蝕まれています。もって数日かと……」


 そんな……なんで……僕は、もっと早くここに来なかったんだ……


 病室で横になっていた中年男性の顔には生気がなかったが、その整った顔立ちは電脳空間サイバースペースで会った少年の面影があった。


 中年男性はベッドの上で半身を起こして、僕達の方を見て少し驚いたような顔をした後、精いっぱいの笑顔をして言った。


「やっと、会えたね。綾小路未来さん」


 ミクがヨロヨロとベッドに歩み寄る。


白龍パイロン君……なの?」


 中年男性は笑顔で頷いた。


(第十章 終了)

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